藤堂彬の誤算だらけの結婚生活
ぎゅっと自分を抱きしめてそう言った。
「……それは、藤堂先生が好きだから? だけど先生は藍ちゃんを好きってわけじゃないんだろう?」
「それはそう。だけど彬さんとの関係は別問題」
「べつじゃないよ。藍ちゃん、ちょっと冷静に考えてみよう? あれだけ完璧でカッコいい人がそばにいれば誰でもポーッとなるよ。ちょっと離れれば目が覚める」
「そんな、そんな言い方しないで。私は、本気」
それに、確かに彼はカッコいいが、好きになったのは完璧だからではない。ふとした時に見せるそうでない部分にも惹かれていると自信を持って言える。
「どっちにしろ関係ないよ。だって先生は、藍ちゃんの本当の夫にはなってくれない」
「そ、そんなのわからないじゃない」
小さな声で反論する。まったくその通りだけれど、改めて口にしてほしくなかった。
弥がため息をついた。
「あのねえ、藍ちゃん、藍ちゃんはまったく経験がないからわからないだろうけど、事実なんだ。ひとつ屋根の下に住んでたのになにもなかったんでしょう? 大人の男女が一緒にいて、まったくなにも起こらないってことは、なんとも思ってないって証拠——」
「勝手に決めないでくれるか」
低い声が弥の言葉を遮った。
驚いて振り返ると、藍の後ろに彬がいる。決して見通しが悪い歩道ではないのだが、話に夢中になっていてすぐ近くにいるのに気がつかなかった。
「彬さん……⁉︎」
驚く藍を、彬は背後から引き寄せる。腕に抱いて弥を睨んだ。
「大切な存在だからこそ、軽い気持ちでは手を出せない。その可能性は頭に浮かばないのか? ったく、どいつもこいつも、動物か……」
最後はひとり言のようだ。
「……せ、先生……」
弥が目を剥いている。
「ま、まさか……」
「そのまさかだ。わかったらさっさと行け。どのみち君には可能性はない」
弥の顔が悔しそうに歪む。
一触即発の空気が漂い、藍は慌て口を開く。
「わっくん、本当にごめんなさい。私が気がつかなかったのがよくなかった。今までたくさん力になってくれたのに……」
すると弥は、今度は涙をこらえるような表情になった。
「……藍ちゃんは悪くないよ。俺が、あえて気づかれないようにしてたんだし。関係を崩すのが怖かったから……。こうなるまで気持ちを言えなかった、僕が悪い」
力なく言ってしばらく歩道のフッドランプを見つめていたが、ややあって決心したように彬を見た。
そして深々と頭を下げる。
「失礼しました。先生、藍ちゃんをよろしくお願いします」
彬がわずかに頷くと、くるりとこちらに背を向ける。
そして駐車場の方へ向かって歩いていった。
「……それは、藤堂先生が好きだから? だけど先生は藍ちゃんを好きってわけじゃないんだろう?」
「それはそう。だけど彬さんとの関係は別問題」
「べつじゃないよ。藍ちゃん、ちょっと冷静に考えてみよう? あれだけ完璧でカッコいい人がそばにいれば誰でもポーッとなるよ。ちょっと離れれば目が覚める」
「そんな、そんな言い方しないで。私は、本気」
それに、確かに彼はカッコいいが、好きになったのは完璧だからではない。ふとした時に見せるそうでない部分にも惹かれていると自信を持って言える。
「どっちにしろ関係ないよ。だって先生は、藍ちゃんの本当の夫にはなってくれない」
「そ、そんなのわからないじゃない」
小さな声で反論する。まったくその通りだけれど、改めて口にしてほしくなかった。
弥がため息をついた。
「あのねえ、藍ちゃん、藍ちゃんはまったく経験がないからわからないだろうけど、事実なんだ。ひとつ屋根の下に住んでたのになにもなかったんでしょう? 大人の男女が一緒にいて、まったくなにも起こらないってことは、なんとも思ってないって証拠——」
「勝手に決めないでくれるか」
低い声が弥の言葉を遮った。
驚いて振り返ると、藍の後ろに彬がいる。決して見通しが悪い歩道ではないのだが、話に夢中になっていてすぐ近くにいるのに気がつかなかった。
「彬さん……⁉︎」
驚く藍を、彬は背後から引き寄せる。腕に抱いて弥を睨んだ。
「大切な存在だからこそ、軽い気持ちでは手を出せない。その可能性は頭に浮かばないのか? ったく、どいつもこいつも、動物か……」
最後はひとり言のようだ。
「……せ、先生……」
弥が目を剥いている。
「ま、まさか……」
「そのまさかだ。わかったらさっさと行け。どのみち君には可能性はない」
弥の顔が悔しそうに歪む。
一触即発の空気が漂い、藍は慌て口を開く。
「わっくん、本当にごめんなさい。私が気がつかなかったのがよくなかった。今までたくさん力になってくれたのに……」
すると弥は、今度は涙をこらえるような表情になった。
「……藍ちゃんは悪くないよ。俺が、あえて気づかれないようにしてたんだし。関係を崩すのが怖かったから……。こうなるまで気持ちを言えなかった、僕が悪い」
力なく言ってしばらく歩道のフッドランプを見つめていたが、ややあって決心したように彬を見た。
そして深々と頭を下げる。
「失礼しました。先生、藍ちゃんをよろしくお願いします」
彬がわずかに頷くと、くるりとこちらに背を向ける。
そして駐車場の方へ向かって歩いていった。