藤堂彬の誤算だらけの結婚生活
「だけど、そんな……本当にそうとも限らなくない? そんなプラーベートなこと普通はベラべラしゃべらないでしょ」
「いやこれは、ある程度確かな話だよ。話をする前にみっちり調べたから。彼は非常に優秀だし引く手数多なんだが、どんな見合い話にも絶対に頷かないそうだ。どうやら女性には興味がないらしい。本人も研究命だから結婚はしないと言っていた」
「それじゃまったく意味なくない⁉︎」
 研究命で女性には興味ない人が結婚なんてするはずがない。
「そうなんだよねー……」
 この指摘には同意のようで、父ががくっと肩を落とした。
「自分は結婚するつもりはないって、はっきり言われちゃった……」
 それでも最終的には見合いの了承を得たとすると、相当無理を言ったのだろう。申し訳ない、と心から思った。
「とにかくそんな無駄なお見合い。今すぐ断ってよ」
「だけどカッコいいよ〜! 藍がよく読んでる本に出てくる男みたいな感じだ」
「なっ……! なによ……それ」
 いきなり、あさっての方向に話が飛んで言葉に詰まる。
 いきなり趣味の話を持ち出されて頬が熱くなった。
『藍がよく読んでる本』とはロマンス小説のことだ。
 入院が多く、時間を持て余しがちな藍の趣味は読書。とりわけ恋愛小説が大好きで、海外国内問わず読みまくっている。
 たいていは美形の男性がカバーイラストに載っているから、そのことを言っているのだろう。
「わっ私は、フィクションとして楽しんでるだけで、べつに面食いじゃないし……! そ、そもそもそんなカッコよくて結婚するつもりがない人が、見合いをしたからといって結婚できるはずもないし」
「いや藍は可愛い。それはお父さんが保証する。きっと藤堂くんも藍なら結婚をしようという気になるはずだ。だけどもちろん結婚までは強要しない。愛のない結婚は不幸なだけだからな。彼にも会うだけと言ってある。一度会ってダメなら俺も諦められるから〜!」
 拝むように手を合わせて父は言う。乙女な仕草に藍はため息をついた。
 娘に激甘な父だけど、自分も相当父に甘い。
 病気のせいで、とにかくずっと心配をかけてきた。
 入院中は忙しい仕事の合間を縫って、一日数分のために、毎日駆けつけてくれたのだ。
 その父がどうしても、と言うのを無下するのは胸が痛む。
 それからもうひとつ。
 ——私からもしっかり謝った方がいいかも。
 どうせもうアポを取ってしまっている。今から無理やり断っても父が藤堂にしっかり謝るとは思えない。
 ここは自分が父に代わって謝ろう。
 父の気持ちに応えられて、謝罪もできるならまあいいか。
「わかった、会うだけだからね」
 ため息混じりにそう言うと、父がぱあと笑顔になった。
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