藤堂彬の誤算だらけの結婚生活
 ずらりと並ぶ、たくさんの本に藍の胸が踊った。藍の宝物、恋愛小説のコレクションだ。
 ——さてさて今日はどれにしようかな。
 心の中でそんなことを思いながら、ピンク色の背表紙を指で滑らせる。ピンとくるもののところで、ぴたりと止まる。
 これに決めた!
 取り出して、どさっとベッドに倒れ込む。そのまま開いて読みはじめた。
 もう何度も何度も読んだから、はじまりの一文もセリフも暗記しているくらいだけれど、それでもいつもはじめて読む時のように胸がドキドキして目が字を追うのを止められない。
 まさに至福の時間だ。
 入院ばかりの人生だと言うとたいていの人は気の毒そうにするけれど、実は藍はそれほど気に病んではいない。
 どんなにつらい治療も新刊を読むために元気になろうと頑張れた。
 本の中でならなんにだってなれる。
 身体のこともあり結婚はしないと決めている藍にとって、恋愛小説はファンタジーに近いが、だからこそ強く惹かれるのかもしれない。
 第一章まで読み終えて、ふとページをめくる手を止めた。胸の上に本を置いて天井を見つめて考えた。
 物語の中のヒーローは天才脳外科医。カバーイラストの男性はうっとりするほどカッコいい。
 思わずさっきの父の話と重ねてしまう。
 ——相手の人、どんな感じなんだろう? お父さんは恋愛小説の表紙みたいだって言ってたけど……。
 眼鏡をかけてる?
 背は高い?
 もしこれが小説の中の話なら、運命の出会いだったりするんだよね……と考えて、いやいやそれは恋愛小説脳すぎでしょ、自分で自分にとつっこみを入れた。
 そんな気持ちで会いに行くなんて相手の人に申し訳ない。父のパワハラのせいで仕方がなくくるのだし、ちゃんと父の不始末を謝らなくては。
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