藤堂彬の誤算だらけの結婚生活

見合い

 都内にあるイタリアンレストラン『フェリチタ』は、藍の祖父の代から懇意にしている人物が経営している。よく家族で来た思い出の場所でもある。
 エントランスでタクシーから降り立つと、ひんやりとした風が吹き抜ける。
 ふるりと身体を震わせて、藍は首もとのストールを巻き直した。
 これからここで例の見合いに臨むのだ。
 着ているのはライムグリーンのワンピース。失礼にならない程度に正装してきたつもりだが、見合いとしては地味かもしれない。
 でもこれできっと正解なのだ。これは見合いなどではなく謝罪の場なのだから。
 本当は同行するはずだった父を断ったのは、相手の男性のことを思ってのことだった。
 当然相手は断るつもりで来るだろうが父がいては、断るものも断れない。もうひとつは、父に対する気遣いだ。
 パワハラは、よくない。
 よくないがそれは娘の自分のためを思ってのことだった。それを目の前で全否定することは、藍はできないと思ったのだ。
『ふたりの方がお互いに気楽だし絶対成功率上がるよ』
 藍の説得に父は理解をしめしつつ、それでもだいぶ渋っていた。最終的には、父の方に予定が入り断念したという形だ。
 場所が懇意にしている店だから、というのもあるかもしれない。
『なにか不都合があれば支配人に言いなさい。手助けするようにくれるように頼んであるよ』
 いくら懇意の店だとしても見合いの世話までさせるなんて、どれだけ過保護なのだと呆れる。けれど兎にも角にもひとりで来られたことはよかった。
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