藤堂彬の誤算だらけの結婚生活
飴色の艶がある歴史を感じるドアが開き、店の中から顔見知りの支配人が出てきた。
「いらっしゃいませ、藍さま。お待ちしておりました」
初老の彼は父も藍もよく知る人物だ。
「こんにちは、お久しぶりです。今日はよろしくお願いします」
「はい。お父さまからもお伺いしております。なんでもお申し付けください」
話をしながら邸宅のような店内に入る。中庭を取り囲む回廊を進み、通されたのは庭が見渡せる個室だった。そこは父と来る際に通される特別室。いつもの部屋、見慣れた空間に藍は肩の力を抜いた。
お詫びをと思い見合いをすることに決めたものの、考えてみればあまり親しくない男性とふたりきりでお茶をするということ自体、藍にとってはじめてだ。
そのことに気がついたのが、さっきのタクシーの中。
もしかして無謀なことをしているのかもと急に怖くなっていた。
——相手の人が怒ったりしたらどうしよう? お父さんが認めた人だからまさかそんなことはないと思うけど。
今更緊張していたから、場所だけでも、よく知る場所だったことがありがたい。
支配人自ら引いてもらった椅子に座ると、彼は感慨深げにため息をついた。
「それにしても大きくなられましたね、お嬢さま。おひとりで来られる日が来るなんて……」
その表情はまるで父。目はうるうるとして、ハンカチでも出しそうである。
「大袈裟です。アフタヌーンティーくらいで……」
そもそも二十六の娘に『大きくなった』はないだろう。
なぜか彼にとっては藍はいつまでも小さな子供のイメージらしく成人してから何回も来ているのに、来るたびにこんな感じのことを言われる。
「いらっしゃいませ、藍さま。お待ちしておりました」
初老の彼は父も藍もよく知る人物だ。
「こんにちは、お久しぶりです。今日はよろしくお願いします」
「はい。お父さまからもお伺いしております。なんでもお申し付けください」
話をしながら邸宅のような店内に入る。中庭を取り囲む回廊を進み、通されたのは庭が見渡せる個室だった。そこは父と来る際に通される特別室。いつもの部屋、見慣れた空間に藍は肩の力を抜いた。
お詫びをと思い見合いをすることに決めたものの、考えてみればあまり親しくない男性とふたりきりでお茶をするということ自体、藍にとってはじめてだ。
そのことに気がついたのが、さっきのタクシーの中。
もしかして無謀なことをしているのかもと急に怖くなっていた。
——相手の人が怒ったりしたらどうしよう? お父さんが認めた人だからまさかそんなことはないと思うけど。
今更緊張していたから、場所だけでも、よく知る場所だったことがありがたい。
支配人自ら引いてもらった椅子に座ると、彼は感慨深げにため息をついた。
「それにしても大きくなられましたね、お嬢さま。おひとりで来られる日が来るなんて……」
その表情はまるで父。目はうるうるとして、ハンカチでも出しそうである。
「大袈裟です。アフタヌーンティーくらいで……」
そもそも二十六の娘に『大きくなった』はないだろう。
なぜか彼にとっては藍はいつまでも小さな子供のイメージらしく成人してから何回も来ているのに、来るたびにこんな感じのことを言われる。