藤堂彬の誤算だらけの結婚生活
 もう返事をする気にもなれなかった。移動中だからギリギリ我慢できるが、そうでないなら即刻中断させている。
 そもそも美醜があるという価値観も彬にとっては無駄な要素。顔は顔であり、それ以上でもそれ以下でもない。
「俺は天下など取りたくない」
 自分の研究室の前まできた彬は足を止めて言い放つ。くだらない話はこれで終いにするつもりだったのだが三橋が意外なことを言う。
「そんなことじゃ、やばいかもしれないよ。第三チーム」
「……なんの話だ?」
 この男は口を開けばいい加減なことばかりなのは承知だがそれでも研究に関することは聞きのがせない。
 ちょうど研究室が無人だったので中で話を聞く。
「大須賀製薬が研究費の削減を検討してるらしい。それに連動していくつかのチームを閉鎖するかもしれないって噂がある」
「……研究資金削減?」
 彬が所属しているのは大須賀製薬と白川医科大の共同プロジェクトだ。脳外科の分野で最先端をいく白川医科大と資金が豊富で新薬の開発に意欲的な大須賀製薬の手を組んだ形だ。
 新薬の開発には年数がかかる上に必ず結果が出るとは限らない。ゆえに途中でチームを編成し直すことは珍しくないが。
「噂レベルの話だけど。でももしそうなった時に、第三チームが削減の標的にならないように気をつけろと俺はおしえてやってるんだ。お前は教授陣に好かれていない」
「好き嫌いがどう関係あるんだ。さっき報告会で言っただろう。うちのチームはもうすぐ結果が出る。多くの患者が救われる薬だ、今更中止はありえない」
「そんな単純なものかねえ」
「どういうことだ」
「お前のチームの新薬は、確かに実用化できれば患者は救われる。だが判断するのは医者じゃなければ、研究者でもない連中だ。そこに価値を見出すとは思えない。商売なんだから普通は儲けで考えるだろって話だよ。お前のチームの研究は実現を待っている患者もいる。だが、珍しい症例ではある。患者は少ない」
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