藤堂彬の誤算だらけの結婚生活
 論理的に話をするのが得意な方ではないから、どうなることかと思ったが相手がよかった。
「いっぱいあって迷いますよね。ガトーショコラがおすすめです」
「……じゃあ、それをいただきます」
「あ、もう敬語はいいです。私の方がだいぶ歳下ですし」
 彼の方は甘いものは苦手ではないがそれほど食べないということでひとつ、藍は三つ皿に取り分ける。たくさん食べられる方ではない藍のことを考えて小さなサイズにしてあるので種類を楽しめるのが嬉しい。
 庭の水場にスズメがやってきている。
 それを眺めながらケーキを食べる。途端に藍は幸せな気持ちになる。
 おでかけをしてケーキを食べる。
 そんな些細なことでさえ、藍には特別に思えるのだ。
「そういえば藤堂さんは新薬の研究をされてるって聞きました」
「そう。分野は言えないが」
「じゃあ、妖精さんなんだ。すごいな〜」
 思わずそう呟くと彼は怪訝な表情になった。
「妖精?」
 藍はふふふと笑った。
「そうです。院内学級……入院中の子たちが通う院内にある学校で、新薬を開発してくれる人たちのことそう呼んでいたんです。今は治療薬がない病気でも妖精さんたちが魔法を使ってきっと薬を作ってくれる。大丈夫って……」
 懐かしくも少し切ない思い出だ。お互いの病状は知らなくても命の危険と隣り合わせでいることはみんな肌で感じていた。
 おとぎ話のような希望を信じることで不安を乗り越えるしかなかったのだ。
「……なるほど」
 藤堂がふっと笑う。
 その笑顔があまりにも素敵で藍は、わあ、と思い目を見張った。
 ここまでずっと無表情だったからギャップがすごい。
 ——うーん、これは完全に恋愛小説だ。お医者さんにしておくのは勿体無い。
 昨今はドラマ化する作品もあるくらいだから、ぜひぜひ出演をお願いしたい。
 いやいや、新薬の開発をされてる人にそんな。
「そんなふうに言われているとは興味深い。私は新薬の開発をしているが、患者と直に接することはあまりない。なのでこういう話を聞ける機会は貴重だな」
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