藤堂彬の誤算だらけの結婚生活
「まずは、料理ができるようになりたいです。それから洗濯とか掃除とかを自分で……つまり、ひとり暮らしをしてみたいんです! 自分で買い物に行って、その日食べたいものを自分で作って……。ひとり旅もしてみたいし、図書館のボランティアをやってみたいし……」
 あれこれ、思いつくままにそう言うと、藤堂は呆れたようにこちらを見ている。
 藍は口を尖らせた。
「そんなこと、って思いました?」
「正直そう思ったよ。だが君の病気とお父さまの感じからすると納得ではある」
「でしょう?」
「まぁ無理だろうなとは思うが」
 スパッと言われてがくっと肩を落とした。
「そうなんですよねー……」
 このままではひとり暮らしなんて夢のまた夢だ。
 旅行なら頼めばOKが出るかもしれないが、きっと父か新田が同伴でオール車移動だろう。おそらく十歩も歩かせてはもらえない。それじゃまったく意味がない。
 とはいえ、愚痴を聞いてもらえてすっきりする。
 ありがたいと感謝して、藍は残りのケーキを食べ終えた。
 この類の愚痴は今まで口にできなかった。
 同じ病気の関係者にとっては贅沢な悩みに聞こえるだろうし、それこそ家族に近しい人たちにはいつも心配かけている立場としては言いにくい。
 初対面でおそらくもう会わない相手だからこそ言えたのだ。
 多少ヘビーだが、ドクターならこれくらいの話は慣れているだろう。
 なんて考えているうちにいい時間になる。そろそろお開きでもいいのでは?と思い藍がそう言いかけた時、藤堂が口を開いた。
「協力しようか?」
「え?」
「その君がやりたいことをやれるように、俺が協力してもいい」
「え? あ……ありがとうございます」
 意外な彼の言葉に面食らいながらもとりあえず礼を言う。ここまでの彼の無関心さからは意外すぎる言葉だ。とはいえ、期待はできない。
 おそらく父にひと言言ってやろうか?という意味だろう。
 彼はドクターなのだからきっと理論的に、この病状ならこれくらいは大丈夫といった感じで説明してくれるつもりなのだろう。
 でもそんなことくらいでどうにかなるほど父は甘くない。
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