藤堂彬の誤算だらけの結婚生活
「はぁ……。愛想よくするのがそんなに嫌なんですか?」
「ああ、嫌だ。というか無駄なことが嫌いなんだ」
 藤堂が顔をしかめ、そして肩をすくめた。
「君が手術を受けた後、あるいは受ける前、自由を満喫したと思った時に結婚を解消すればいい。まあ一般的に考えたら非常識な話だな」
 そうなのだろうか?
 いや、そうなのだろう。
 けれど嫌悪感などは湧かなかった。
 よくあることではなさそうなのは確かだが、そもそも藍は世間というものをよく知らない。
 友人たちもまだ誰ひとり結婚していない。
 藍と世間を繋いでいるのは本だが、恋愛小説の中では利害が一致するから結婚をするというシチュエーションはまあまあある。
 だから非常識だとまでは思わなかったし、そう言われてみれば、いい案だという感じがした。
「いいかもしれませんね」
 素直な感想を口にすると彼が意外そうに瞬きをする。
「なにか?」
「いや、そんなことあり得ないと言われるかと思ったので」
「そうなんですか? でも私、普通ってよくわからなくて。ここまでの話をお聞きする限りお互いにとっていいことずくめな気がします」
「いやそうではない。デメリットもある」
 その言葉に藍はこくんと頷いて続きを促した。
 この人は信用できるという不思議な信頼感がある。出会ってすぐに結婚の意思がないことをはっきり告げてくれたからかもしれない。
「数年とはいえ結婚していた、という記録は消えない。婚歴が残るというわけだ。これについて俺はまったく問題ないが君の方は将来結婚したいと思った時に障害になるかもしれない。当事者にとってはただの契約終了だが、離婚は離婚なのであれこれうるさく言う者が出るかもしれない」
 そう言って彼は試すように藍を見て、どう思うかを尋ねるように首を傾げた。
 これについては考えるまでもなく答えが出る。
「あ、私も将来結婚するつもりはありませんので問題ないです。離婚の時は、まあいろいろ言われるかも。それでも数年間自由にできると思えばまったく問題ないです」
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