藤堂彬の誤算だらけの結婚生活
 あまりにうるさい三橋の言葉を、彬は遮った。
 結婚に関しての藍とかわした取り決めでお互いに信頼できる人には事情を話してよいということにした。
 生活しているとどうしてもボロが出る部分はある。
 そうは言っても彬の場合は、突っ込んだ話をする相手がいないから誰にも言うつもりはなかったが……。
「そもそも俺も彼女もお互いに恋愛感情があっての結婚じゃない。勧められた相手が立場上よさそうだから結婚した。それだけだ」
 目的部分は省き、ざっくり状況を説明する。
 この説明がまかり通るのは、医者の結婚……とりわけ大学病院という世界での話だからだ。
 大学病院で上を目指す医師にとって人脈はなにより大切なアドバンテージ。そしてそれを得るために結婚は有力な手段だ。
 彬には理解できないが、そもそも複数の愛人がいる医師も珍しくないから、恋愛結婚でないことも珍しくはない。
「ああ、そういう……」
 ようやく三橋が納得した。
「つまりはあれ? 研究のためにって感じ?」
「そういうことだ。向こうもそれはわかっている」
「マジか」
 三橋がつまらなそうにした。
「なんだ?」
「いや、なんていうか……ついにヒューマロイドの初恋か⁉︎ってめっちゃわくわくしてたから」
「くだらない」
 思わず鼻で笑い飛ばす。恋など、そんな不確かな感情で、結婚などするものか。
「そんなコスパの悪いこと俺がするわけないだろう」
 言い放つと、三橋が愕然とした。
「コスパってそんな……お前の価値観はそうとしても奥さんは人間なんだから、きっとお前とは違うと思うぞ。ちゃんと感情があるんだから、扱いには注意しろよ。てか、どんな子? 年下だよな。写真ないの? 見せて見せて、見せて見せて」
 小学生か、と言いたくなるくらいしつこく見せてを繰り返す三橋に彬はため息をつく。しぶしぶ胸ポケットからスマホを出した。
 両家で式代わりの食事会をした時に撮った写真だ。
「ちょっ……! めっちゃ可愛いじゃんっ!」
 途端にテンションが上がる三橋に彬は眉を寄せた。
 写真ひとつで、そこまで盛り上がれるなんてつくづくおめでたいやつだ。
 写真の中に並ぶ男女は自分と藍。
 自分はいつものように無表情で、藍の方はほんの少し笑っている。可愛いのかといわれれば……よくわからないというのが本音だった。
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