藤堂彬の誤算だらけの結婚生活
 あの事件で彬は、彼女の世間知らず度が自分の予想を越えているのでは?と疑いをもった。
 そしてその疑いが正しいことを確信したのはボランティア初日の"ひとりで電車事件"だった。
 はじめてひとりで電車に乗ると言う彼女のことが彬はどうしても気になった。
 彼女は、学校の社会科見学で一度乗ったことで随分自信があるようだったが、彬からしたらそれは経験のうちに入らない。
 団体なら料金はまとめて支払うだろうし改札を通らない。そしてなにより乗る電車を間違えることはない。
 口出しはしないと約束した手前根掘り葉掘り聞くことはできないが、念のためと思い確認すると、案の定ICカードの存在も知らなかった。
 これはまずいと思った彬は、仕方なく、当日ひとりで出かけた彼女の後をついていったのだ。
 そこからの展開は我ながらナイスフォロー。
 こっそりと駅のスタッフに協力を仰ぎ、ICカードの買い方を彼女に伝授してもらった。ついでに乗るべき電車の案内も。
 かくして彼女にはまったく気付かれることなく"ひとりで電車"体験を成功させたというわけだ。
 それは喜ばしいことなのだが、結局これで彬は彼女の世間知らず度が重症だということを確信した。
 結果、彼女から目が離せなくなってしまったのだ。
 毎日帰宅しているのは、自由を満喫すると決めた彼女がまずは料理をマスターすると決めたからだ。
 シチュー事件の次の日には、初心者用の本を買い込み、基礎からはじめている。それで安心、とならないのは皮剥きという名目で粉々にされていたじゃがいもを見てしまったから。また無茶をしてケガでもしていないか、事故でも起こしていないかと夕方になると気になってくる。
 そして研究に集中できなくなる。
 無事を確認するために毎日帰宅するしかなくなるのだ。
 しかも。
 無事を確認したら、さっさと二階に引っ込んで仕事の続きをしたいのだが、そうはならず、なぜかそのまま彼女と一緒に夕食を囲む。
 ……まったく想定外すぎる展開だが、それも仕方がない、と彬は自分に言い聞かせる。
『まだ分量通りにしか作れないんですけど、ひとり分って本に載ってなくて……』
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