藤堂彬の誤算だらけの結婚生活
慌てて否定すると不思議そうにじっと見られる。
仕方なく藍は思っていることを口にする。
「私、彬さんの研究の邪魔をしないっていう約束、守れていないし、熱を出して迷惑をかけちゃったし……結婚もやめようって言われるかと……」
すると、彬はしばらくその場で考えている。そして椅子に座り直し、藍の顔を覗き込んだ。
「べつに迷惑をかけたと言われるほどのことじゃない。今の君は多少の発熱くらいは問題ないのはわかっているし、君の健康管理は俺の責任だからこのくらいは想定内だ」
彼は淡々とした口調できっぱりと言い切るが、それでも申し訳ない気持ちは消えなかった。
「だけど自由になったのが嬉しくて、はしゃぎすぎた自覚はあります。……料理も毎日食べてもらってたし」
改めて考えると、やっぱりあれは迷惑行為だった。しかもそれで熱を出したのだから恩を仇で返したようなものだ。
そう思うともうどうしようもなくなって、ぽろりと目尻から涙が流れ落ちる。
「すみませ……」
急に泣いてしまったからだろう。彬が驚いたように目を見開く。そして困ったように眉を寄せた。
「なんだ、急に弱気だな。いつもは驚くくらい前向きなのに」
「……熱が出るとよくない夢を見るんです……。そのあとは、ちょっと自信がなくなります……。この間彬さんに計画性がないって言われたばかりなのに……」
布団をギュッと握り締めて額のあたりまで引き上げる。布団の中で彬のため息まじりの声を聞く。
「そんなに焦るな。君はまだ成長の途中だろう。その積極性と好奇心は長所だ。確かに無茶をするところはあるが、今までろくに外に出てなかったのだから加減がわからなくて当然だ」
その言葉に驚いて、藍は布団を少し下げる。
目が合うと彬は咳払いをして、視線を逸らした。
「それに、その……料理は、美味かった。テイクアウトは手軽だが栄養価的には手料理の方がいいに決まってるし」
「本当ですか……?」
「俺は嘘は言わない」
彼の耳が少し赤くなる。それを目にした瞬間に、藍の胸にあたたかいものが広がった。
ということは、これからも藍が作ったものを食べてくれるのだろうか。
「じゃあ、これからも食べてくれるんですか……?」
「ああ。君がそうしたいなら」
「……あ、ありがとうございます……! あ、じゃ、じゃあなるべくおしゃべりしないようにします」
嬉しくて、せめてもの気持ちでそう告げる。改めて考えてみると、食事の際に、あまりにも話しかけすぎだと思ったからだ。
父と食事をしていた時はよく話をしていた藍からしてみれば普通だが、彼にとっては違うだろう。
「……まあそれもあまり気にするな。体調がいい証拠なんだろうし」
思いがけない言葉が返ってきて思わず目を見開くと、彼は咳払いをした。
「ただ今後はもう少しスケジュールを緩くした方がいいかもしれないな。それと次は熱が出たタイミングで連絡してくるように」
「……はい。そうします」
なんだか胸がいっぱいでまた涙が込み上げる。声が震えてしまったのに気がついたのかどうなのか、彬がまた咳払いをひとつして立ち上がった。
「おかゆくらいなら食べられるだろう。準備して持ってくる」
そう言ってパソコンを手に部屋を出ていった。
静かにドアが閉まる。藍は布団をかぶったまま、自分の鼓動がとくんとくんと鳴っている音を聞いていた。
仕方なく藍は思っていることを口にする。
「私、彬さんの研究の邪魔をしないっていう約束、守れていないし、熱を出して迷惑をかけちゃったし……結婚もやめようって言われるかと……」
すると、彬はしばらくその場で考えている。そして椅子に座り直し、藍の顔を覗き込んだ。
「べつに迷惑をかけたと言われるほどのことじゃない。今の君は多少の発熱くらいは問題ないのはわかっているし、君の健康管理は俺の責任だからこのくらいは想定内だ」
彼は淡々とした口調できっぱりと言い切るが、それでも申し訳ない気持ちは消えなかった。
「だけど自由になったのが嬉しくて、はしゃぎすぎた自覚はあります。……料理も毎日食べてもらってたし」
改めて考えると、やっぱりあれは迷惑行為だった。しかもそれで熱を出したのだから恩を仇で返したようなものだ。
そう思うともうどうしようもなくなって、ぽろりと目尻から涙が流れ落ちる。
「すみませ……」
急に泣いてしまったからだろう。彬が驚いたように目を見開く。そして困ったように眉を寄せた。
「なんだ、急に弱気だな。いつもは驚くくらい前向きなのに」
「……熱が出るとよくない夢を見るんです……。そのあとは、ちょっと自信がなくなります……。この間彬さんに計画性がないって言われたばかりなのに……」
布団をギュッと握り締めて額のあたりまで引き上げる。布団の中で彬のため息まじりの声を聞く。
「そんなに焦るな。君はまだ成長の途中だろう。その積極性と好奇心は長所だ。確かに無茶をするところはあるが、今までろくに外に出てなかったのだから加減がわからなくて当然だ」
その言葉に驚いて、藍は布団を少し下げる。
目が合うと彬は咳払いをして、視線を逸らした。
「それに、その……料理は、美味かった。テイクアウトは手軽だが栄養価的には手料理の方がいいに決まってるし」
「本当ですか……?」
「俺は嘘は言わない」
彼の耳が少し赤くなる。それを目にした瞬間に、藍の胸にあたたかいものが広がった。
ということは、これからも藍が作ったものを食べてくれるのだろうか。
「じゃあ、これからも食べてくれるんですか……?」
「ああ。君がそうしたいなら」
「……あ、ありがとうございます……! あ、じゃ、じゃあなるべくおしゃべりしないようにします」
嬉しくて、せめてもの気持ちでそう告げる。改めて考えてみると、食事の際に、あまりにも話しかけすぎだと思ったからだ。
父と食事をしていた時はよく話をしていた藍からしてみれば普通だが、彼にとっては違うだろう。
「……まあそれもあまり気にするな。体調がいい証拠なんだろうし」
思いがけない言葉が返ってきて思わず目を見開くと、彼は咳払いをした。
「ただ今後はもう少しスケジュールを緩くした方がいいかもしれないな。それと次は熱が出たタイミングで連絡してくるように」
「……はい。そうします」
なんだか胸がいっぱいでまた涙が込み上げる。声が震えてしまったのに気がついたのかどうなのか、彬がまた咳払いをひとつして立ち上がった。
「おかゆくらいなら食べられるだろう。準備して持ってくる」
そう言ってパソコンを手に部屋を出ていった。
静かにドアが閉まる。藍は布団をかぶったまま、自分の鼓動がとくんとくんと鳴っている音を聞いていた。