藤堂彬の誤算だらけの結婚生活

不快な気持ち

* *  *

「藤堂先生、体調よさそうだね」
 昼下がりの研究室、自分のデスクにて資料を読み込んでいた彬は、高橋の声に反応する。
 研究室の空気は研究の進行具体によって決まる。殺伐とする時期が多いが結果が出ている今は、どこかのんびりとした空気が漂っている。
「だね。資料まとめのスピードも前と同じに戻ったし。帰宅する方が調子いいなんてやっぱり人間だったんだ。結婚さまさまだね」
 水沢の答えに、彬は眉を寄せた。
 まったくこのふたりは……。これで内密に話をしているつもりなのだろうか。
「まあもともと第三チーム(うち)は進行早いから、先生が一カ月くらい寝ててもいいくらいなんだけど」
「だね」
 それにしても、ここのところ彬が研究に集中できていなかったことを気づかれていたのが忌々しい。
 振り返り「体調は悪くない。それから結婚は関係ない」と言いたくなる。
 だができなかった。図星だからだ。
 それがよけいに忌々しい。
 彼らが言った通りここ数日は研究に集中できている。
 もともと集中できていなかったのが藍のせいである以上、その変化の原因は当然彼女にある。
 まず彼女のスケジュールがやや緩やかになった。自分で自分の限界を知ったようで"ボランティアの日は料理はしない"などペース配分を落としている。
 料理の腕も上がったのでもう初日のような大惨事はなさそうだ。
 熱が出たら必ずすぐに報告すると約束させたのも大きい。
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