藤堂彬の誤算だらけの結婚生活
最近は一緒にいる際は、こんなふうに少し会話が続くようになっている。
側からみれば素っ気ないやり取りだが藍はまったく気にならない。それどころか楽しかった。
年末に陽菜と電話をした際の疑問、なぜ彼と一緒にいることを煩わしく思わないのか?という疑問に対する明確な答えは出ていない。思ったよりもいい人だったからだというのは確実だが、それにしても、心が浮き立つような変な感じへの答えにはならないような気がする。
どんなにいい人でも一緒に住んでいてこんなに楽しいことがあるのだろうか?
「あ、たこ焼きもある! たまご煎餅ってなんだろ」
カラフルな屋台の文字を見ながら歩きだした藍は、ぐいっと腕を引っ張られ止められる。
「こら、ちゃんと足元を見て。人混みに突進したら迷子になる。……ったく子どもみたいだな君は」
いつの間にか彼と逸れそうになっていたようだ。小言を言われて肩をすくめた。
「はじめてなのでテンション上がっちゃいました」
周りをよく見てみると、はしゃいでいるのは小学生くらいの子で、中学生くらいの子でももう少し落ち着いている。
「すみません」
急に恥ずかしくなって謝ると「いや」と彬が慌てた。
「そうだな、はじめてだった。じゃあまあ仕方ない」
これは最近気がついたことなのだが、彼は藍が世間知らずなことを言うと、こうやってちょっと申し訳なさそうにする。それが藍にとっては新鮮で、ほんのり気持ちがあたたかくなる。
「いえ、迷子になったら付き添ってもらった意味ないので……。だけどこれだけ人がいたら離れないなんて至難の技みたいに思えますね。みんなどうやってるんでしょう?」
そう言って彼とふたり人混みをじっと見つめてみる。
家族連れに混じって、恋人同士、あるいは夫婦と思われるふたり組もまあまあいて、彼らはぴったりと寄り添っている。そして離れないように皆腕を組んだり手を繋いだり……。
あれなら確かに迷子にはならない。だけどさすがにそれは無理だ。
嫌なのではない。
決して嫌なのではないけれど、自分と彼が手を繋ぐなんて想像しただけで、頭の中が爆発しそうだ。そしてそのまま、溶けてなくなってしまいそうだ。
とにかく絶対に無理だった。
彼を見ると、微妙な表情になっている。手を繋ぐのが得策だが、それは自分たちに相応しくないと思っているのだろう。
ブンブンとかぶりを振ってなにかを考えている。
そして深く息を吐いて藍の方に腕を差し出した。
「腕に掴まれ。君は嫌かもしれないが仕方ない。迷子になられたらせっかくついてきた意味がなくなる」
「でも彬さんの方が嫌じゃないですか……?」
「嫌だったら提案はしない」
そっけなく言って視線を逸らした彼の耳が赤いように思えるのは気のせいだろか?
とにかく迷子になっては迷惑をかける。体調に影響するのだから、いわばこれは医療行為みたいなものだと自分自身に言い聞かせた。
そっと彼の腕を掴むと頭の中は爆発はしなかったものの、なんだかふわふわと浮いているような気分になる。
男性との接触に慣れていないからだろう。ピーラーの使い方をおしえてもらった時と同じだけれど、それにしてもあの時よりももっとドキドキするような……。
「じゃ、じゃあ行こうか」
「はっはい」
どこかぎくしゃくとしながらふたりで人混みに突入した。
境内は少し開けていて、人混みはましになる。お詣りが終わると、楽しそうなものが藍の目に飛び込んできた。絵馬だ。
正月仕様なのか長机がいくつも並べられていて、皆思い思いに願いごとを書いている。
やってみたい!と思うけれど、言い出すことはできそうにない。
参道は思ったよりも混んでいて、彬にはもうすでにかなりの時間を藍のために使ってもらっている。お詣りが終わったら速やかに帰るべきだろう。
すぐに目を逸らしたが鋭い彼にはバレてしまう。
「やりたいのか?」
「えっ! えーっと……」
「やりたいんだな?」
「うっ、うーんと……。でも結構時間を使ってもらったので……」
「やりたいならやればいい。せっかく出てきたんだから、やりたいことは可能な限りやる方が俺の時間を有効に使ったことになる」
側からみれば素っ気ないやり取りだが藍はまったく気にならない。それどころか楽しかった。
年末に陽菜と電話をした際の疑問、なぜ彼と一緒にいることを煩わしく思わないのか?という疑問に対する明確な答えは出ていない。思ったよりもいい人だったからだというのは確実だが、それにしても、心が浮き立つような変な感じへの答えにはならないような気がする。
どんなにいい人でも一緒に住んでいてこんなに楽しいことがあるのだろうか?
「あ、たこ焼きもある! たまご煎餅ってなんだろ」
カラフルな屋台の文字を見ながら歩きだした藍は、ぐいっと腕を引っ張られ止められる。
「こら、ちゃんと足元を見て。人混みに突進したら迷子になる。……ったく子どもみたいだな君は」
いつの間にか彼と逸れそうになっていたようだ。小言を言われて肩をすくめた。
「はじめてなのでテンション上がっちゃいました」
周りをよく見てみると、はしゃいでいるのは小学生くらいの子で、中学生くらいの子でももう少し落ち着いている。
「すみません」
急に恥ずかしくなって謝ると「いや」と彬が慌てた。
「そうだな、はじめてだった。じゃあまあ仕方ない」
これは最近気がついたことなのだが、彼は藍が世間知らずなことを言うと、こうやってちょっと申し訳なさそうにする。それが藍にとっては新鮮で、ほんのり気持ちがあたたかくなる。
「いえ、迷子になったら付き添ってもらった意味ないので……。だけどこれだけ人がいたら離れないなんて至難の技みたいに思えますね。みんなどうやってるんでしょう?」
そう言って彼とふたり人混みをじっと見つめてみる。
家族連れに混じって、恋人同士、あるいは夫婦と思われるふたり組もまあまあいて、彼らはぴったりと寄り添っている。そして離れないように皆腕を組んだり手を繋いだり……。
あれなら確かに迷子にはならない。だけどさすがにそれは無理だ。
嫌なのではない。
決して嫌なのではないけれど、自分と彼が手を繋ぐなんて想像しただけで、頭の中が爆発しそうだ。そしてそのまま、溶けてなくなってしまいそうだ。
とにかく絶対に無理だった。
彼を見ると、微妙な表情になっている。手を繋ぐのが得策だが、それは自分たちに相応しくないと思っているのだろう。
ブンブンとかぶりを振ってなにかを考えている。
そして深く息を吐いて藍の方に腕を差し出した。
「腕に掴まれ。君は嫌かもしれないが仕方ない。迷子になられたらせっかくついてきた意味がなくなる」
「でも彬さんの方が嫌じゃないですか……?」
「嫌だったら提案はしない」
そっけなく言って視線を逸らした彼の耳が赤いように思えるのは気のせいだろか?
とにかく迷子になっては迷惑をかける。体調に影響するのだから、いわばこれは医療行為みたいなものだと自分自身に言い聞かせた。
そっと彼の腕を掴むと頭の中は爆発はしなかったものの、なんだかふわふわと浮いているような気分になる。
男性との接触に慣れていないからだろう。ピーラーの使い方をおしえてもらった時と同じだけれど、それにしてもあの時よりももっとドキドキするような……。
「じゃ、じゃあ行こうか」
「はっはい」
どこかぎくしゃくとしながらふたりで人混みに突入した。
境内は少し開けていて、人混みはましになる。お詣りが終わると、楽しそうなものが藍の目に飛び込んできた。絵馬だ。
正月仕様なのか長机がいくつも並べられていて、皆思い思いに願いごとを書いている。
やってみたい!と思うけれど、言い出すことはできそうにない。
参道は思ったよりも混んでいて、彬にはもうすでにかなりの時間を藍のために使ってもらっている。お詣りが終わったら速やかに帰るべきだろう。
すぐに目を逸らしたが鋭い彼にはバレてしまう。
「やりたいのか?」
「えっ! えーっと……」
「やりたいんだな?」
「うっ、うーんと……。でも結構時間を使ってもらったので……」
「やりたいならやればいい。せっかく出てきたんだから、やりたいことは可能な限りやる方が俺の時間を有効に使ったことになる」