キミが家族になった、その日から。
聖夜に隠した本音
文化祭が終わると、季節はあっという間に冬へと変わった。吐く息は白く、朝の空気は頬が痛くなるほど冷たい。
──12月24日、終業式の日。
「メリークリスマス!」
教室は朝から浮き足立っていた。友達同士でプレゼントを交換したり、放課後の予定を話したり。
そんな賑やかな空気の中で、夏音は窓際の一番後ろを見つめていた。
涼は今日も本を読んでいる。
家では普通に話すのに、学校では目も合わせない。
その距離に慣れたはずなのに、今日は少しだけ寂しかった。
「夏音!」
美優が駆け寄ってくる。
「今日暇?」
「あ、ごめん……今日は家族でご飯食べる約束してるんだ。」
──本当は、少しだけ期待していた。
家に帰れば、涼がいる。同じ家で迎える初めてのクリスマス。
何か特別なことがあるわけじゃない。
それでも、一緒に過ごせるだけで嬉しかった。
──夕方。
母と継父は買い物へ出かけていた。
「二人でケーキ選んでくるから、留守番お願いね。」
そう言ってふたりは家を出ていく。訪れた静かなリビング。
ソファには涼が座って本を読んでいた。
「……静かだね。」
「そうだな。」
時計の針だけが、ゆっくり時を刻んでいる。
──パチッ
突然、家中の電気が消えた。
「えっ!?」
部屋が真っ暗になる。
「停電……?」
外を見ると、近所の家も真っ暗だった。
どうやらこの辺り一帯が停電したらしい。
「……っ」
どうしよう、わたし暗いの……っ
「……夏音。」
──隣から低い声が聞こえる。
「こっち。」
手探りで歩こうとした瞬間、誰かの手がそっと自分の手に触れた。
「!」
「転ぶぞ」
──涼だった。…安心させてくれる温かい手。
ぎゅっと握るわけではない。でも離れないように、優しく包み込んでくれている。
───鼓動が、一気に早くなる
「ありがとう……。」
「怖いのか?」
「ちょっとだけ。」
「なら。」
涼はそのまま夏音の手を離さなかった。暗闇の中、二人だけの静かな時間が流れていく。
───夏音は思う。
「このまま、時間が止まればいいのにな」
そんな願いが叶うはずもなく、数分後、部屋に明かりが戻った。
ぱっと照らされたリビングで、二人は同時に手を離す。少しだけ気まずい沈黙。
「……悪い。」
照れくさそうに目を逸らす涼。
「転ばないようにと思っただけだから。」
「うん。」
夏音は笑って答えた。
でも、胸の鼓動だけは、まだ少しも落ち着いてくれなかった。
――その夜。
涼は自分の部屋で、さっき握った右手を見つめていた。
「……俺、何やってるんだ。」
『好きになるな。』
あの日、自分で口にした言葉。
その約束を、今、一番破ろうとしているのは自分だった。