結婚したくないはずの俺様社長に、成婚を強行されました
 父は仕事を最優先にし、家庭を顧みることはほとんどなかった。迅が小学五年のとき、祖父が亡くなり、会社を継いでからはなおさらだった。広い屋敷の中で、母がどこか寂しそうに微笑んでいた姿を、迅は何度も見てきた。

 母は父に対して嫌気が指さないのかと不思議に思った。別れないのは世間体とプライドのためだったのかもしれない。

 そんな家庭環境で育った迅は、世の中をロジカルかつ、冷めた目でみるようになった。

 結婚によって得られるのは〝世間体〟と〝跡取り〟でしかない。

 ひとたび離婚すればその対面は崩れるうえに、財産分与という現実的な損失は避けられない。

 迅にとって結婚はリスクを伴う契約でしかないという認識になった。

『伴侶は家に利益をもたらす相手を選べ』

 祖父も父も口をそろえて迅にそう語っていた。

 だったら、相手に頼らなくても利益をもたらす経営者になればいいと迅は密かに考えるようになった。結婚しなくても、それは可能だ。

 結婚は恭弥がすればいいし、跡取りも彼の子でいいと思っていた。ようは社長業以外の面倒ごとを弟に押し付けようと目論んでいたのだ。
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