結婚したくないはずの俺様社長に、成婚を強行されました
「特にないな。強いて言うなら穏やかな人で、プロポーズは、家とか安心できる場所でその人の言葉で伝えてくれれば」

「わが娘ながら地味ねぇ。でも、恋愛のひとつくらいしとかないと、カウンセラーとしての幅が広がらないわよ」

 母の軽い声がチクリと胸をさしたが、透子は曖昧に口元を緩める。

「結婚したくなったら、いつかお母さんにいい人とお見合いを取り持ってもらうよ。〝婚活界の魔女〟に任せておけば安心だろうし」
 透子は冗談めかして軽く肩を竦めた。

「送ってくれてありがとう。助かった」

 母の車で自宅前まで送ってもらった透子は、シートベルトを外しながらお礼を言う。

「いいのよ。それより、たまには家にも帰ってきなさい。ヒロくんが『女の子の独り暮らしなんて大丈夫なのかって』っていまだにうるさいの」

「ふふ、その内顔出すよ。ヒロ君には心配しないように言っておいて」

 そう言い残して透子は車を降り、走り去る車を見送った。

 透子が住んでいるのは、三軒茶屋の駅から少し歩いた住宅街にある、築十年ほどのオートロック付きマンションだ。
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