結婚したくないはずの俺様社長に、成婚を強行されました
 つい、恨みがましい声が出てしまった。

「女性は、こういうところに連れてくれば喜ぶものだと思っていたが」

 ドリンクリストに目を落としていた迅は、こちらを向いて不思議そうな顔になった。透子は小さくため息をつく。

「これまで真壁様がお付き合いされた方はそうだったのかもしれませんが、初手でここはハードルが高すぎます」

「君は恋人とのデートでこういう場所にはこなかったのか」

 こういうところどころか、デート自体経験がありませんが――とは言わすに、透子は曖昧に笑みを浮かべる。

「少なくとも私には場違いかと」

 だれもが、高級な店を喜ぶわけではない。相手の意見を尊重し合うのが交際の常識、それ以前に人間関係構築の基本だ。

「そうか? 俺には君が場違いには見えない。そのワンピースもよく似合っていて綺麗だ」

 流れるように褒められて、小さく胸が跳ねる。

「それは……ありがとうございます」

(さすがセレブ。こういう場で女性を褒めるのは、紳士のたしなみなのね)

 完全に迅のペースに嵌っている。少し悔しかったが、透子はこれ以上空気を悪くするのは大人げないと口を噤んだ。
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