結婚したくないはずの俺様社長に、成婚を強行されました
 すでにディナーコースが注文されていたようで、迅はソムリエに「なにか口当たりのいいシャンパンを」と声をかけただけだった。

 フロートグラスに注がれたシャンパンで乾杯し、アミューズから始まった料理は、繊細なアートのように皿に配置されていた。

「すごく美味しい。柚子の風味がいいですね」

 フォークを口に運び、思わず声が漏れる。柚子のムースを纏った鰆のマリネは前菜にふさわしい爽やかな味わいだった。

「ああ、久しぶりに来たが、美味いな」

 フォークの音が鳴らないように緊張している透子とは違い、迅は慣れた様子だ。

(えぇと、なにか話さないと)

 想定とは全く違うデートだが、仮交際では、この先交際を続けるか判断するための対話や、互いの価値観を擦り合わせが大切だ。

 迅との交際はいわゆる〝デキレース〟だ。どのみち成婚退会するのが決まっている。しかし、今の透子は自分が婚活をしているひとりの会員のつもりで彼と会っている。

(でも、この高級感あふれる個室で、大企業の社長さん相手に気の利いた話なんて思い浮かばない)
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