冷徹営業トップは私の限界オタクでした
二人は駅近くのビルに入っている、三階のカフェへ向かった。
アイスコーヒーを注文し、街を見渡せる窓際のカウンター席に並んで座った。
「ちくわくんって、女性によく声をかけられるんですか?」
「たまにありますね…。」
まじまじと陽菜子は神崎の顔を見る。
「確かに。ちくわくんって整った顔してますもんね。」
隣でじっくり見られて、神崎は耳が赤くなる。
「陽菜子さんに、そう言ってもらえて光栄です。」
「前から聞きたかったんですけど、あの日どうして公園で怪我してたんですか?」
「以前、声をかけてきた女性をいつものように追い払ったんです。その女性が知り合いの男たちに、俺から襲われそうになったと嘘をついたらしくて……。後から公園へ呼び出され、殴られました」
「相手は複数でしたし、こちらが手を出せば会社にも迷惑がかかると思って……」
(情けない…こんな話したくないのに、陽菜子さんには隠したくない。)
「そうだったんですね。大変な思いしましたね。」
陽菜子はアイスコーヒーに視線を落とす。
「…陽菜子さんが傷の手当てをしてくれたおかげで、すぐ治りました。その節はありがとうございました。」
(あの日も、もっと違う断り方をしていれば……。)
「いえ…。やっぱり、あの断り方は良くないですね。ちくわくんの身を守るためにも。」
「そうですよね…。今後、気をつけるようにします。」
その後は、他愛のない会話をした。
陽菜子の好きなものや、普段の休日の過ごし方。
今まで知らなかった彼女のことを一つずつ知る時間が、神崎には何よりも幸せだった。

幸せな時間は、あっという間に過ぎた。
陽菜子は腕時計を見て、はっとしたように目を見開いた。
「もう、こんな時間ですね。お付き合いありがとうございました」
「こちらこそ、陽菜子さんとお話しできて嬉しかったです」
「ふふっ。私もです。またお話ししましょうね」
陽菜子はそう微笑んでから、席を立った。
「そろそろ恵美との待ち合わせに行かないと」
陽菜子は神崎へ軽く手を振り、カフェを後にした。
神崎は、その後ろ姿から目を離すことができなかった。
(心臓が、うるさい……)
陽菜子の姿が見えなくなっても、神崎の鼓動はなかなか静まらなかった。
(「また」って言いましたよね……? 次もあるということですか!?)
神崎は一人になったカウンター席で顔を覆った。
今日も、しばらく眠れそうになかった。