冷徹営業トップは私の限界オタクでした
第16話「あなたが私を『ちくわくん』と呼ぶ理由を知りました。」
陽菜子をおんぶしている神崎は震える足をなんとか我慢しながら、陽菜子の家に着いた。
陽菜子は鍵を取り出したが、酔った手ではなかなか鍵穴に差し込めない。
「ちくわくん、やって。」
「分かりました。ただし、玄関までですからね? 」
鍵を受け取り、鍵をガチャリと開けた。
おんぶをしていた陽菜子を下した。
だが、陽菜子は玄関で靴を脱がずにその場で倒れこんだ。
「陽菜子さん?」
呼びかけても陽菜子は目を閉じたまま動かない。
玄関で眠り込んだ彼女を、そのままにして帰るわけにもいかなかった。
神崎は陽菜子の靴を脱がせると、そっと抱き上げた。
さすがに寝室へ入ることはためらわれ、ひとまずリビングのソファーへ運ぶ。
「陽菜子さん、お水を持ってきますね。台所をお借りします。」
(陽菜子さんの家に入ってしまった。これはファンとして禁止行為では!?早く出て行かねば!でも陽菜子さんをこのまま放っておくわけにもいかない!)
グラスへ水を注ぎ、急いでリビングへ戻る。
「陽菜子さん、お水をお持ちしましたよ」
ところが、陽菜子は寝ぼけたまま、ブラウスのボタンを外そうとしていた。
神崎はグラスをテーブルへ置くと、反射的に床へ額をつけた。
「ご、ごめんなさい!!なにも見ていません!」
土下座した神崎の背中へ、突然ずしりと重みが加わった。
陽菜子が、その背中へ覆いかぶさったのだ。
「ちくわくん…あったかい。」
犬のちくわくんと勘違いしている様子だった。
「ひ、陽菜子さんッ…!!」
背中へ伝わる体温に、神崎の全身が固まる。
そのとき、神崎は部屋の様子に気がついた。
リビングのいたるところに、陽菜子と愛犬のちくわくんが一緒に写った写真が飾られている。
幼い陽菜子の隣で伏せている写真。
満開の桜の下で寄り添っている写真。
ソファーの上で陽菜子に抱きつかれている写真。
どの写真のちくわくんも、陽菜子を大切そうに見つめていた。
しかし、これほど写真が飾られているにもかかわらず、部屋には犬用のベッドも、食器も、リードも見当たらなかった。
「陽菜子さん……ちくわくんは、今どこに……?」
神崎は床につけていた頭を、ゆっくりと上げた。
陽菜子は神崎の背中へくっついたまま、眠っている。
その目尻には、薄く涙がにじんでいた。
神崎は背中の陽菜子を慎重に支え、そっと抱き上げた。
迷った末に寝室の場所だけを確認し、なるべく室内を見ないよう目を伏せたまま、陽菜子をベッドへ運ぶ。
「陽菜子さん、ゆっくり休んでくださいね。」
布団を掛け、陽菜子の肩をそっと撫でた。
このまま帰ろう。
そう思って神崎が立ち上がった瞬間、手を握られた。
「どこにもいかないで。ちくわくん。」
陽菜子は眠ったまま、涙を流していた。
その言葉が、自分へ向けられたものではないことは分かっていた。
陽菜子が呼んでいるのは、愛犬のちくわくんだ。
それでも、泣いている陽菜子を置いて帰ることはできなかった。
「どこにも行きませんよ。」
神崎はベッドの横へ腰を下ろし、握られた手を静かに握り返した。
陽菜子の表情が、少しずつ穏やかなものへ変わっていく。
やがて安心したように、小さな寝息を立て始めた。
神崎にも、酒と疲労が残っていた。
陽菜子の穏やかな寝息を聞いているうちに、いつしか神崎の瞼もゆっくりと落ちていった。
陽菜子は鍵を取り出したが、酔った手ではなかなか鍵穴に差し込めない。
「ちくわくん、やって。」
「分かりました。ただし、玄関までですからね? 」
鍵を受け取り、鍵をガチャリと開けた。
おんぶをしていた陽菜子を下した。
だが、陽菜子は玄関で靴を脱がずにその場で倒れこんだ。
「陽菜子さん?」
呼びかけても陽菜子は目を閉じたまま動かない。
玄関で眠り込んだ彼女を、そのままにして帰るわけにもいかなかった。
神崎は陽菜子の靴を脱がせると、そっと抱き上げた。
さすがに寝室へ入ることはためらわれ、ひとまずリビングのソファーへ運ぶ。
「陽菜子さん、お水を持ってきますね。台所をお借りします。」
(陽菜子さんの家に入ってしまった。これはファンとして禁止行為では!?早く出て行かねば!でも陽菜子さんをこのまま放っておくわけにもいかない!)
グラスへ水を注ぎ、急いでリビングへ戻る。
「陽菜子さん、お水をお持ちしましたよ」
ところが、陽菜子は寝ぼけたまま、ブラウスのボタンを外そうとしていた。
神崎はグラスをテーブルへ置くと、反射的に床へ額をつけた。
「ご、ごめんなさい!!なにも見ていません!」
土下座した神崎の背中へ、突然ずしりと重みが加わった。
陽菜子が、その背中へ覆いかぶさったのだ。
「ちくわくん…あったかい。」
犬のちくわくんと勘違いしている様子だった。
「ひ、陽菜子さんッ…!!」
背中へ伝わる体温に、神崎の全身が固まる。
そのとき、神崎は部屋の様子に気がついた。
リビングのいたるところに、陽菜子と愛犬のちくわくんが一緒に写った写真が飾られている。
幼い陽菜子の隣で伏せている写真。
満開の桜の下で寄り添っている写真。
ソファーの上で陽菜子に抱きつかれている写真。
どの写真のちくわくんも、陽菜子を大切そうに見つめていた。
しかし、これほど写真が飾られているにもかかわらず、部屋には犬用のベッドも、食器も、リードも見当たらなかった。
「陽菜子さん……ちくわくんは、今どこに……?」
神崎は床につけていた頭を、ゆっくりと上げた。
陽菜子は神崎の背中へくっついたまま、眠っている。
その目尻には、薄く涙がにじんでいた。
神崎は背中の陽菜子を慎重に支え、そっと抱き上げた。
迷った末に寝室の場所だけを確認し、なるべく室内を見ないよう目を伏せたまま、陽菜子をベッドへ運ぶ。
「陽菜子さん、ゆっくり休んでくださいね。」
布団を掛け、陽菜子の肩をそっと撫でた。
このまま帰ろう。
そう思って神崎が立ち上がった瞬間、手を握られた。
「どこにもいかないで。ちくわくん。」
陽菜子は眠ったまま、涙を流していた。
その言葉が、自分へ向けられたものではないことは分かっていた。
陽菜子が呼んでいるのは、愛犬のちくわくんだ。
それでも、泣いている陽菜子を置いて帰ることはできなかった。
「どこにも行きませんよ。」
神崎はベッドの横へ腰を下ろし、握られた手を静かに握り返した。
陽菜子の表情が、少しずつ穏やかなものへ変わっていく。
やがて安心したように、小さな寝息を立て始めた。
神崎にも、酒と疲労が残っていた。
陽菜子の穏やかな寝息を聞いているうちに、いつしか神崎の瞼もゆっくりと落ちていった。