終わらない夜に
「……つぐみ、今のは」
「私の子ですよ。双子なんです」
よほど驚いているのだろう。少し唖然としたのちに、彼は口を閉じ問いかける。
「結婚……したの?」
どこか緊張を含む声に、私も返事に詰まってしまう。
ここで『はい』と言えばきっと全て終わる。
既婚者にむやみに近づく人なんかじゃないだろうから。
だけど言えない。
あの子たちを『他の人との子供』だなんて、嘘でも言いたくない。
「……してないです。未婚で、産んだので」
精いっぱいの言葉でごまかすと、そのタイミングで保育士さんとともに建物を出てきた子供たちが私の足に勢いよく抱きついた。
「まま、おかえりー!」
「おかえり!」
「ただいま。さ、帰ろうか」
保育士さんに挨拶をして子供たちを自転車に乗せようとすると、ふたりは私の隣の名執さんをじっと見た。
「だれぇー?」
「ママのお仕事の人。ご挨拶して」
「こんにちはぁ」
ちょこんと頭を下げたふたりに、名執さんはしゃがんで視線を合わせる。
「こんにちは。ちゃんとご挨拶できて偉いね、お名前は?」
「ゆきと!」
「とーま」
元気に答える雪人と遠慮がちに言う冬馬。
ふたりに名執さんは優しく笑って頭を撫でる。
なにげないその景色は、夢にまで見た親子の姿で胸が締め付けられた。
少しでも気を緩めたら泣いてしまいそうだ。
その気持ちを堪えて、名執さんに向かって口を開く。
「私はもう、あの頃みたいな、親に潰されてる子供じゃない。この子たちを守る母親なんです。
……勝手に去っていったことはごめんなさい。だけどもうあなたとは終わったから」
だから、これでさよなら。
そう言おうとしたけど言葉がちゃんと出てこなくて、一瞬目を伏せる。
「わぁーっ!」
すると突然、雪人のはしゃぐ声がした。驚き顔を上げると、なぜか目の前では名執さんが雪人を肩車していた。
「すごーい!たかーい!ままよりたかーい!」
「もちろん。俺の方が大きいからね」
「おじさんすごーい!」
「おじさん……」
なにを突然、と戸惑っていると名執さんはその一瞬ですぐに雪人と打ち解け、続いて冬馬にも同様に肩車をしてあっという間に打ち解けた。
「雪人、冬馬。今日おじさん一緒にごはん食べてもいいかな」
「いーよ! なっ、とーま!」
「うん」
名執さんの問いかけに、子供たちはなんの抵抗感もなくすんなりと受け入れる。
戸惑っているのは私ひとりだ。
「あの、なんの話……?」
「よし。ふたりから許可はもらったし、今日は一緒に食事しよう」
名執さんはそう言いながら子供たちを自転車のシートに乗せると、私と向き合った。
「聞いた感じ、事実として今つぐみは結婚してないし相手もいない。なら、俺は諦めるつもりないよ」
「へ?」
「終わったなんて言わないでよ。俺はまだ終わらせたつもりないから。
この4年、ずっとつぐみに会いたかったし、ずっとつぐみが好きだった」
真剣にこちらを見る、薄茶色の瞳に戸惑う顔の私が映る。
「ここからまたやり直したい」
そう言って、少し荒れた私の手を取り、手の甲に優しくキスをした。
こういう少し強引なところも、だけど真っ直ぐに気持ちを伝えてくれるところも、変わらない。
全部あの頃のままで、全部私が好きな彼のまま。
唇が触れた手から全身に熱がめぐり、一気に耳まで熱くなるのを感じた。
「まま、まっか」
「え!? いや、これは……もう行くよ!」
冬馬の指摘に動揺しながらもごまかすと、4人一緒に家までの道を歩き始める。
どうしよう。接すれば接するほど、彼との日々が色濃くよみがえってくる。
拒めない。拒みたくない。
私も、やり直したい。
そんなのダメだって、わかっているのに。