終わらない夜に
それから4人で家に帰ると早々に、名執さんはパンッと手を叩く。
「よし!じゃあふたりとも、帰ったらまずどうするんだっけ?」
「てーあらう!」
「おきがえする!」
名執さんの言葉を合図にふたりは手を上げて答えると、バタバタと洗面所へと向かった。
「いつもは私が言ってようやく動くのに……」
「『ママはお仕事で疲れてるから自分でやろう』って話しておいたんだ。物分かりのいい子たちだね」
そうだったんだ。私を待つ間にそんな話をしてくれていたんだと思うとうれしい。
「で、つぐみはこっち」
「え?」
私の肩を抱いてリビングに入ると、名執さんはダイニングの椅子に私を座らせる。
そして足元にひざまずくと、私が履いていた白いテーパードパンツの裾をまくり上げた。
「きゃっ!?突然なにを!?」
「子供たちに気づかれないように黙ってたけど、裾あたりに血がにじんでたから。うわ、すねも腫れてる」
先ほど転んだときのものだろう。
くるぶしの辺りに擦り傷ができ、血が出ている。自分でも気づかなかったけど、名執さんは気づいていたんだ。
「消毒液は?」
「戸棚の上の救急箱に」
それを聞いて名執さんは救急箱を手に取ると、消毒液で傷口を洗い手早く処置をしていく。
「いっ」
「はい、いい子だから我慢しましょうねー」
傷口に消毒液が染みて痛みに小さな声をあげると、名執さんはからかうように言った。
男性にしては関節の小さいすらりとした指先が、絆創膏をそっと貼る。
「で、さっきの隠し子ってなに?」
「……私たちが昨日一緒に歩いてたの、誰かが見てたらしくて。職場の人たちが誤解してたんです。
それで、名執さんに子供がいるなんて誤解が広まったら大変だと思って」
「そう? べつに大変なことはないけど」
私の気持ちなどまるで知らないといったように、名執さんはあっさりと答える。
「いや、でも……」
「それに、まだ出会って二日の俺とあの子たちが、親子みたいに見えてるってことでしょ?そんなのうれしい以外ないよ」
へへ、と照れくさそうに笑う彼の言葉は嘘だとは思えなかった。
……そうだ。こういうところが好きなんだった。
私の不安も悩みも、自然に優しく包んでくれる彼だから。
心から信頼できたし、そばにいたいと思ったんだ。
改めて実感させられて、心が一気に揺らいでしまう。
今日を乗り切れば、彼はまた都内の生活に戻って、いつしか私たちの存在も薄れていく。
だからごまかして、あの子たちは他の人との子供という設定を貫けばいい。
……そう思うのに。
「……あの子たちが本当に名執さんの子だったら、どうしますか」
つぶやくように問いかけた私の言葉に、名執さんは目の前にひざまずいたまま少し驚いた顔をする。
だけどその反応は、『あの子たちが自分の子供だったこと』に対してというよりも、それを私が認める言い方をしたことに対しての驚きに感じられた。
その証拠に、彼は疑いもせずに受け入れるように笑う。