終わらない夜に

「ね、つぎいつくる?」
『そうだねぇ、雪人が来てほしい日に行こうかな』
「きょう!きょうきて!とーまもそうゆってる!」

それは絶対無理……!
冬馬にも確認をとりにいくように、雪人は通話中のスマートフォンを投げ出してリビングへと駆けていった。

「すみません、雪人が……本気にしなくていいですからね」
『朝から元気だね。じゃあリクエストにお答えして、今夜そっちに行こうかな』
「えっ、でも仕事ありますよね?船の時間間に合わないんじゃ……」
『大丈夫。言ったでしょ、ヘリがあるって』

あれ本気だったんだ……。
名執さんの財力を見せつけられた気がして苦笑いをした。
そんな私の声から表情を想像しているのか、電話口で彼はおかしそうに笑った。

『20時過ぎとか少し遅くなるかもしれないけど、土日はオフだからそのまま週末4人で過ごそうか』
「すみません、せっかくのお休みなのに」
『いいよ。それに〝すみません〟よりお礼の言葉のほうがうれしいかな』

言われてみれば確かに、『すみません』ばかり言っているかも。
甘えるようで少し気恥ずかしいけど……。

「ありがとう、ございます」

遠慮がちにつぶやくと、彼はうれしそうに『どういたしまして』と返してくれた。
そして通話を終えたところで、冬馬を連れた雪人が戻ってきた。

「あれ!あおいは!?」
「もうお仕事行く時間なんだって。今日遅くなっちゃうかもしれないけど、明日と明後日は一緒に遊べるって」

私の言葉に、ふたりは手を上げてよろこんだ。
子供たちほど大きく表すことはできないけど、私も同じくらいうれしく思っている。



そんな朝を過ごし、大慌てで家を出てなんとか保育園にも仕事にも間に合うことができた。

そしていつも通りパソコンで資料の入力をしていると、原田さんから視線を向けられていることに気がついた。

「どうかしました?」
「つぐみちゃん……もしかして、彼氏できた?」
「え!?なんでですか!?」

もしかしてまた名執さんとの噂話が出回ってる!?
いや、でも水曜の朝から会っていないし……と思い当たることを考えていると、原田さんからの返答は予想外のものだった。

「私にはわかる、雰囲気が違うね」
「雰囲気、ですか?」
「なんかうれしそうっていうか幸せそうっていうか、笑顔が柔らかくなった気がする」

笑顔が……。
その言葉で思い浮かぶのは名執さんのこと。

子供たちと過ごしてきた間も幸せだったけど、彼と再会してからはまた違う幸せを感じている。

ドキドキしたり、泣きたくなったり。
子供たちの前では見せずにいる本当の自分の姿を見せられるのは、きっと名執さんだから。

先日のキス手前のシーンを思い出して思わず頬を染める私に、原田さんはむふふと笑った。

「図星みたいだね」
「いや、違います!そんな彼氏だなんて……」
「その反応こそが『そういう相手います』って言ってるようなものよ。
これまでだったら『ないですよー』って笑って流してたのに、そんな真っ赤になっちゃって!恋っていいわねぇ!」

ここで働き始めて3年の付き合いにもなると、原田さんにはお見通しらしい。
これ以上下手に言って探られるのもいやなので、私は熱い頬をそのままに口を閉じた。
 
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