終わらない夜に


保育園に預け始めた頃と比べたら減ったとはいえ、急な発熱での欠席や早退はたびたびある。
そのたび『早く行ってあげて!』と送り出してくれて、理解のある会社で本当にありがたい。

今朝ぐずっていたのは体調が悪かったからだったのかも。全然気づかなかったな。

保育園に雪人を迎えに行き、ついでに冬馬も一緒に回収。
それから近くの町医者で診てもらったところ、軽い風邪だそうで薬を飲めばすぐよくなるとのことだった。

それは本当だったようで、帰宅後に薬を飲みぐっすりと寝た雪人は夜にはすっかり元気になっていた。

「まま、あおいはぁ?」
「まだ。遅くなっちゃうかもって言ってたよ」
「いっしょにおふろ、はいりたかったぁ」
「また明日ね。だから今日はちゃんと寝てしっかり治そ」

雪人を布団に寝かしつけ、熱が下がってよかったと安堵していると、襖の隙間から冬馬がこちらを覗いているのが見えた。

「冬馬、おいで」

どうしてもやんちゃな雪人にばかり構ってしまうから、しっかり者の冬馬も寂しく感じるときがあるみたいだ。
私が手招くと冬馬は駆け寄り抱きついた。

「とーまも……あおいとおふろ、はいる」
「うん。じゃあ明日は3人でお風呂だね」
「ママは?りくくんのおうちはね、ぱぱとままとおふろはいるってゆってた」
「えーと……」

パパとママではあるけど戸籍上ではそうじゃなくて……それに、一緒に入るなんて恥ずかしくてできない!

どう説明しようか考えているうちに冬馬も眠くなってきたようで、雪人の隣の布団で寝かしつけた。
ぐっすり眠るふたりの寝顔に思わず笑みをこぼしながら、私は寝室をあとにする。

私も名執さんが来る前にお風呂入っておこうかな。
今日も一日汗かいたし、今更だけど少しでもちゃんとした格好で会いたいと思う。

ご飯食べてくるのかな、簡単なもの用意しておいたほうがいいかも。
食事の支度、いや先にお風呂……とひとりウロウロ家の中を歩く。

やっぱり彼のことを思うと、心はあの頃に戻ってしまう。
ときめいて恥ずかしくなって、浮かれてしまう。
……これだから原田さんにバレるわけだ。

するとそのとき、ピンポンと玄関の呼び鈴が鳴った。
リビングの時計を見ると、時刻は19時過ぎだ。

名執さんかな?思ったより早かったかも。
そう思いながら玄関に向かい電気をつけた。

「名執さん?早かったですね……」

言いかけながら玄関の引き戸を開ける。すると目の前には笑顔で立つ牧野さんがいた。

突然の出現に驚き「えっ」と声が出る。
咄嗟に戸を閉めようとした私の左手を彼は素早く掴んだ。

「『なとり』っていうんだ?藤咲ちゃんの彼氏」

笑顔なのに目が笑っていない顔で、抑揚のない声を出した。
いつもは細められている目は瞳孔が開いたようにバチバチに見開かれており、今朝以上にゾッと血の気が引く。

「な、んで……住所」

 驚きからうまく言葉が出ない。

「事務員パートさんとの会話で藤咲ちゃんが住んでる地区聞いてさ。あとはこの辺の人に話しかけてみたんだ、『この辺りでかわいい双子ちゃんよく見かけますよね』って。
そしたら簡単に聞き出せたよ、『二丁目のつぐみちゃんの家の子だね』って」

 一見にこやかな好青年に見える彼に、近所の人も何気なく話してしまったのだろう。
だけどわざわざ探ってこうして家まで来るなんて、どうかしている。
 
< 31 / 33 >

この作品をシェア

pagetop