終わらない夜に
「な、なによ……そんな冷たい言い方しなくても」
「何度も言っていますが、あなたと結婚はしません。次またしつこく連絡したり勝手に会社に来たりしたら、弁護士介入での話し合いをさせてもらいます。丸尾、出口までのご案内を」
彼に命じられ、丸尾さんも冷静な態度で部屋のドアを開け、彼女の肩を押しながら部屋から出そうとする。
「ちょっと弁護士って……わかった、今日は帰るわよ! でも今週末の顔合わせは来てよね!?うちの親だって名執とのつながりができてよろこんでるんだから!」
それでも諦めないといったように、彼女は声をあげながら丸尾さんに連れて行かれた。
その場にふたりきりとなり、途端に静まり返る室内で、私は先ほどの彼女の言葉を頭の中で繰り返していた。
『いやよねぇ、そんな卑しい血が名執の血縁に加わるなんて』
『恥ずかしいとか名執の家に迷惑がかかるとか思わないのかしら』
そう。どんなに母から離れようと、私の中に流れる血は変わらない。
あの人の血を受け継いだ、親子なのだから。
再認識する事実に、指先が冷えていくのを感じた。
「つぐみ」
その声にはっと我に返り顔を上げると、不安げに私を覗き込む名執さんがいた。
「……ごめん。嫌な思いさせて」
「いえ、そんな……」
「さっきの話の通り親が用意した縁談の相手なんだけど、すごくしつこくてさ。恋人がいるってちゃんと会わせれば諦めると思ったら、逆に火がつくとは」
申し訳なく言う彼に、『大丈夫です』といつも通り笑って答えたいのに、落ち込む気持ちがどうしても隠せない。
そんな私の気持ちを察するように、名執さんは私の手をぎゅっと握る。
「ね、つぐみ?例えばだけど、俺の父親が極道の親分だったらどうする?」
「へ?」
かと思えば突拍子もない問いかけに、私は意味がわからず首を傾げた。
「極道の、ですか?」
「うん。つねに沢山の舎弟に囲まれてて、刺青もドーンと入ってて、母親も姐さんとか呼ばれちゃってて……だとしたら俺を嫌いになる?」
言われた通りの極道一家を想像しながらも、私は全力で首を横に振る。
「ならないです!親は親、名執さんは名執さんですから」
「でも親のせいでつぐみにも迷惑がかかるかもしれないよ?」
「そのときはそのときです。そりゃあ身内にそういう方がいたら大変なこともあるとは思いますけど……でもそれが名執さんを嫌いになる理由にはならないです」
はっきり言い切った私に、名執さんはおかしそうにふっと笑う。
「そう。俺も同じ気持ち」
「え?」
「今つぐみが言った通り。親や家庭の事情は一緒に乗り越えていけばいいと思うし、それがつぐみを嫌いになる理由にはならないんだよ」
柔らかく微笑む彼の優しい瞳が、この心の不安をそっと包んでくれる。
「親は親、つぐみはつぐみ。俺が好きなのはつぐみなんだから」
……そっか、こんなに簡単なことだった。
私がどんな彼でも愛せてしまうように。
彼にとっても同じで、私自身を愛してくれている。その言葉に安心して涙が出る。
名執さんはこれまでも何度も、私と向き合う言葉をくれていた。
だけど私自身がそれを素直に受け入れきれないままだった。
……もう逃げたくない。
母からも、引け目ばかりの弱い自分からも。
「名執さん、ごめんなさい。今日の内見、また別日にしてもいいですか?」
「いいよ。なにか用事でもあった?」
「……はい、名執さんにもついてきてほしいんです」
それから私はあるところに電話をかけ、短い会話のあと約束を取りつけた。
「何度も言っていますが、あなたと結婚はしません。次またしつこく連絡したり勝手に会社に来たりしたら、弁護士介入での話し合いをさせてもらいます。丸尾、出口までのご案内を」
彼に命じられ、丸尾さんも冷静な態度で部屋のドアを開け、彼女の肩を押しながら部屋から出そうとする。
「ちょっと弁護士って……わかった、今日は帰るわよ! でも今週末の顔合わせは来てよね!?うちの親だって名執とのつながりができてよろこんでるんだから!」
それでも諦めないといったように、彼女は声をあげながら丸尾さんに連れて行かれた。
その場にふたりきりとなり、途端に静まり返る室内で、私は先ほどの彼女の言葉を頭の中で繰り返していた。
『いやよねぇ、そんな卑しい血が名執の血縁に加わるなんて』
『恥ずかしいとか名執の家に迷惑がかかるとか思わないのかしら』
そう。どんなに母から離れようと、私の中に流れる血は変わらない。
あの人の血を受け継いだ、親子なのだから。
再認識する事実に、指先が冷えていくのを感じた。
「つぐみ」
その声にはっと我に返り顔を上げると、不安げに私を覗き込む名執さんがいた。
「……ごめん。嫌な思いさせて」
「いえ、そんな……」
「さっきの話の通り親が用意した縁談の相手なんだけど、すごくしつこくてさ。恋人がいるってちゃんと会わせれば諦めると思ったら、逆に火がつくとは」
申し訳なく言う彼に、『大丈夫です』といつも通り笑って答えたいのに、落ち込む気持ちがどうしても隠せない。
そんな私の気持ちを察するように、名執さんは私の手をぎゅっと握る。
「ね、つぐみ?例えばだけど、俺の父親が極道の親分だったらどうする?」
「へ?」
かと思えば突拍子もない問いかけに、私は意味がわからず首を傾げた。
「極道の、ですか?」
「うん。つねに沢山の舎弟に囲まれてて、刺青もドーンと入ってて、母親も姐さんとか呼ばれちゃってて……だとしたら俺を嫌いになる?」
言われた通りの極道一家を想像しながらも、私は全力で首を横に振る。
「ならないです!親は親、名執さんは名執さんですから」
「でも親のせいでつぐみにも迷惑がかかるかもしれないよ?」
「そのときはそのときです。そりゃあ身内にそういう方がいたら大変なこともあるとは思いますけど……でもそれが名執さんを嫌いになる理由にはならないです」
はっきり言い切った私に、名執さんはおかしそうにふっと笑う。
「そう。俺も同じ気持ち」
「え?」
「今つぐみが言った通り。親や家庭の事情は一緒に乗り越えていけばいいと思うし、それがつぐみを嫌いになる理由にはならないんだよ」
柔らかく微笑む彼の優しい瞳が、この心の不安をそっと包んでくれる。
「親は親、つぐみはつぐみ。俺が好きなのはつぐみなんだから」
……そっか、こんなに簡単なことだった。
私がどんな彼でも愛せてしまうように。
彼にとっても同じで、私自身を愛してくれている。その言葉に安心して涙が出る。
名執さんはこれまでも何度も、私と向き合う言葉をくれていた。
だけど私自身がそれを素直に受け入れきれないままだった。
……もう逃げたくない。
母からも、引け目ばかりの弱い自分からも。
「名執さん、ごめんなさい。今日の内見、また別日にしてもいいですか?」
「いいよ。なにか用事でもあった?」
「……はい、名執さんにもついてきてほしいんです」
それから私はあるところに電話をかけ、短い会話のあと約束を取りつけた。