終わらない夜に

そして数時間後、都内から車で1時間半かけてやってきたのは、山梨県にある私の地元だった。

待ち合わせに選んだのは、自宅近くの小さな喫茶店。
昔からある個人経営のそのお店は閉店まであと1時間ということもあり、閑散としていた。

「いらっしゃいませ」

私と名執さんがふたりで店内へ入ると、愛想のない店主の声が出迎えた。
小さなライトがぽつりぽつりと灯す、レトロな内装の店内を見回すと、一番端の席にその姿があった。

「つぐみ!」

こちらを見た途端、席を立ち大声で呼ぶのは、あの日以来四年ぶりに見る母だ。

名執さんとの会話を経て、私は改めて母との関係をきちんと清算したいと思った。
そこで久しぶりに母に連絡を取り、一度会う約束をしたのだった。

あの頃よりもさらに太った体型とぼさぼさの髪、汚れたままのTシャツといった風貌の母を目の前に体が強張るのを感じる。
けれど呼吸をひとつおいて落ち着くと、名執さんとともに母のいる席へ向かった。

4人がけのテーブル席に、母と向かい合う形で座る。
そして私たちがホットコーヒーをふたつ注文すると、母は早速口を開く。

「久しぶりじゃない。今までなにしてたのよ、いきなり連絡つかなくなって、会社に聞いたら辞めたとかいうしひどいじゃない」
「……いろいろあったの」
「あれから大変だったんだから。警察に連れて行かれて器物破損?とか業務妨害?とか言われて、慰謝料とか請求されてさぁ。そんなもん払えるかっての」

鼻で笑っているその様子から見ても、警察に連行されてもなんの反省もしなかったようだ。
むしろ『ない袖は触れない』と開き直っているようにすら見える。

「それよりももう生活費も足らなくてさ、アンタに連絡したけどつながらないし、家行ったら退去したとかいうし。
行方不明だって警察行っても『成人が自らいなくなったのなら事件性なし』とか言って本当使えない、今思い出してもムカつく!」

一方的にペラペラと話してから、母は「ところで」と私の隣の名執さんに目をとめた。

「その隣の人は?まさか彼氏?どこで捕まえたのよ、アンタにはもったいないくらいいい男じゃない」

そう言いながら、細めた目で名執さんをジロジロと見る。
顔を見てから服などの身なりを見て、ニヤリと嫌な笑みを浮かべる、その表情に不快感を覚えているとコーヒーが運ばれてきた。

テーブルに置かれたカップから漂う淹れたてのコーヒーの香りが鼻をくすぐる。
いい香り、と思いながら改めてテーブルの上を見ると、母の前には水しか置かれていない。

なにも注文せずに水だけで過ごしていたのだろう。こういう人だったと実感し、私はようやく口を開く。

 
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