終わらない夜に
「私の母に対して不安があるかもしれません。でももう縁は切りました。……きっともう、二度と会うこともないです」
そこまで言って私は一度顔を上げ、再度ご両親と向き合った。
「私はもう母に縛られ潰されていた子供じゃないです。自分の人生を、自分と大切な人のために生きていきたい。
だからお願いです。この結婚を認めてください」
今一度、テーブルに頭がつくくらい深く頭を下げると、隣で名執さんも頭を下げる気配がした。
「俺からも、お願いします」
彼の真剣な声に、同じ気持ちでいてくれることがとても心強い。
「ふたりとも、顔を上げなさい」
頭を下げたままの私たちにそう声をかけたのはお父さんだった。
名執さんとともにゆっくりと頭を上げると、目の前のお父さんは優しい目で私たちを見ていた。
「詳しくはわからないけど、きっと今までたくさん苦労をしてきたんだろうことは伝わってきたよ。その上で、変わろうと頑張ってきたんだね」
「……はい」
「だけどこの先、いろんな目で見てくる人や心無い言葉を言ってくる人がいるかもしれない。そのときに互いを信じて思い合う、そんな心を強く持つことが大事だよ」
もしかしたらこの先、私の家庭事情がどこからか知られて傷つくことを言われるかもしれない。
偏見や妙な噂で悲しむことがあるのかもしれない。
だけど、名執さんと信じ合い思い会うことできっと乗り越えられるはず。
そう、お父さんの言葉は私たちの背中を押してくれているような気がした。
「僕からは以上。お母さんからは?」
お父さんに話を振られ、隣のお母さんに目を向ける。
こちらを見るお母さんの表情は先ほどまでの強気なものとは違う。驚きや不安に悲しげに歪んでいる。
「あなた、あれから今までひとりで双子を育てていたの……?」
「ひとりで、といっても移住先の環境がよかったので、周りの人に助けていただきながらなんとか」
「どうしてなにも言わなかったの……どれだけ不安で大変だったか」
それは、同じ母親として、妊娠出産後の不安も子育ての苦労も知っているからこその言葉なのだろう。
私が妊娠していたことなど一切知らなかったと思う。
そのタイミングで引き離した自分の行いを悔いるように、悲しそうな表情のままのお母さんに、私は笑ってみせる。
「ひとりで育てるって決めていたので。確かに不安もつらさもあったけど……かわいい我が子と、蒼さんとの思い出さえあればなにもいらなかったんです。
それくらい、蒼さんのことがずっと好きだったんです」
恥ずかしくて、普段なら言えない言葉。
だけど気持ちを知ってほしいという思いから、ためらいなくあふれ出た。
するとそのとき、突然扉がバンバンと叩かれる。