無口な彼の、静かな執着が甘すぎる。
「水島さんは痰をとるとき暴れるから、押さえておいて」
「わかりました」
本当は嫌がる処置なんてしたくない。でも、暴れてしまうと、もっと苦しい思いをさせることになってしまうから。
「水島さん、ちょっとお体触りますね。ごめんなさいね」
……ここで感じた違和感。
他の看護助手が押さえるときは、体に触れた瞬間から大暴れするのに、今日はなぜかじっとしている。
静かにしてくれて助かった、と思ったのもつかの間。水島さんの手がスルスルと私の胸元へと伸びてきた。
……少しだけ、いや、かなり……
結構、ガッツリ掴まれているような……。
でも、ここで私が何か言ったらそれこそ大暴れして、処置の邪魔になっちゃうかもしれない。
痰の吸引はほんの10秒くらい。耐えなきゃ……。
ギュッと目を閉じて、押さえている手にギュッと力を込めたとき。さっきまで響いていた吸引の音が、ピタッと止まった。
「いくら患者とはいえ、看護助手の体にむやみに触るのは許しませんよ」
話し方はいつも通り、静かで淡々としている。
でもなんだか、こんなにハッキリと怒りの感情を出しているのは、初めてな気がして……。
「水島さん、そういうことをされると処置の邪魔になるんです。分かります?触るのをやめないなら、男性の看護助手を連れてきますよ。長島さんがいいなら、その触っている手をどけてください。迷惑です」
柳さんがいなかったら、きっと私はこのまま触られるのを我慢していた。
不覚にも、怖い存在だと思っていた柳さんのことを――。
嫌なことにハッキリと言えるなんて羨ましいな、なんて思い始めていた。
「あっ、あの……柳さんっ」
「……なに」
「その……さっきは、ありがとうございました」
「そういうのいいから。さっさと次の患者」
使用済みの手袋をゴミ袋へ投げ入れると、柳さんはすぐに別の患者さんのところへ行ってしまった。
……柳さん。私はどうしたら、あなたにさっきのお礼を伝えられますか……?