無口な彼の、静かな執着が甘すぎる。
──────…。
「お疲れ様です、お先に失礼します」
「あっ、長島ちゃん!今日はありがとうね」
「いえ、仕事ですので。残業はできないので、失礼します」
散々、柳さんのことを「怖い」だの「コミュニケーションが取れない人」なんて言っていたけど。
定時を過ぎた瞬間の私も、なかなか冷たい態度だな……と反省する。
カバンからペットボトルのお茶を取り出して一口飲み、まとめていた髪を一気にほどく。
これが、一日の看護助手としての仕事が終わった合図。
タイムカードを押して帰ろう。
一階へ降りる階段に向かおうとしたとき、振り払うこともできない強い力で手を掴まれた。
「……おい、お前誰だ。ここは関係者以外立ち入り禁止だぞ」
その声の主は、柳さんだった。
あの……一応私、関係者です。今日あなたと、一日中ペアで仕事をしていました……。
「……柳さん、私です……」
振り返って顔を見せると、柳さんはギョッとした顔をして、慌てて掴んでいた手を離した。
「髪の毛、ずっと結んどけよ。職場にいる間は。後ろから見たら誰だか分かんねぇよ」
「……あっ、す、すみません……」
「…別に謝ってほしいわけじゃない」
目を合わせようとしているのに、柳さんは頑なに目を逸らし続ける。私のこと、どれだけ嫌いなんだろう……。
「あの、私とペアになるのが嫌なら、一度、看護師長さんに二人で相談しに行きませんか」
「は?」
「二人で相談しに行ったら、きっと看護師長さんも対応してくれますよ」
私なりに良い提案をしたつもりだった。
そのはずだったのに、柳さんの表情はどんどん沈んでいき、どこか怒っているようにも見えてくる。
「……俺は長島さんがいいのに」
「え?」
「なんでもない。さっさと帰れ。お疲れ様」