黄金のレティシア ~献身的な令嬢でしたが日々のブラックな慈善生活に疲れてしまいましたので、そろそろ自分の幸せを考えたいと思います~
11 陳情と駆け引き──ラカンside
「新区域の支援が上手く回ってない?」
「……そのようですね」
貧民地区の支援活動、その元々の担当区域ではなく、今回、新たに手を出し始めた区域での報告を受け取っての話だ。
「なぜだ? 初期の支援計画は前回の経験を踏まえた上で行なったもの。今回はその上、前回の区域よりは比較的にはマシな状況の区域への支援だ。不足なことが起きるとは思えないが」
「……おそらくですが、民の求める水準が上がっているのでは?」
「どういうことだ?」
「詳しくは調べて確認しないとなりませんが、手元に届いた陳情書を見ますと」
私はヴァリスとともに改めて陳情書を確認する。どう言えばいいだろうか。
仮に最初の支援区域を『A街』としよう。次に手がけた場所は『B街』だ。
B街からの陳情には『A街よりも手厚い支援を求む』『A街よりも豊かな街にしてほしい』といった類の意見が見られた。
街に対する愛着心が強い地区なのだろうか?
僕が手がけてきた、これまでの支援計画の話も伝わっているらしい。
AとBの街は別に隣接地域ではなく、王都でも離れた場所にある。
そこまで対立関係があるとは思えないが……?
「結局、何を求めているんだ? 支援計画の前倒しか?」
「……より高水準の支援ですね。たとえば、あちらに銅を配ったのなら、こちらには銀を寄越せ、というような」
「……なんだそれは」
なぜそんなことを言い出す?
貧しい民たちのもとに、ほぼ対価もなくもたらされる支援だ。
状況に沿わずに迷惑という陳情ならば理解できるが、ただの高望み?
「……何も一区域の人間が一致団結しての意見ではないと思いますね。殿下の支援計画に便乗した、何者かが支援を理由に王家から資金を得ようとしている可能性もあります」
「なんだと?」
「あくまで推測のひとつですがね。慎重にはなるべきかと」
民の貧困を利用して私腹を肥やそうという人間がいる可能性か。
もし、そんな者がいるのなら、なんと不届きな者だろう。
僕とヴァリスはB街の調査を改めて行うことになった。
……調査に時間を取ると、確かに民には不満の声が広がっている。
しかし、彼らを扇動した者は見つからない。
何者かが裏にいるのか。
それとも、これが彼らの正直な気持ちなのか。
「このままでは」
支援計画を進めても不満が高まるばかりだな。
『A街よりも手厚く』……そう実感しないと納得しないような雰囲気だ。
これは最悪な空気と言っていいだろう。
元々のA街を知っている僕からすれば、彼らよりも随分とマシな地域なのに。
「どうすればいいと思う? ヴァリス」
「……キリの良く、納得される範囲であの地区への支援を切り上げるのがベストですね。元より当初の予算を考えれば、あちらまで手が回るはずがなかったのです」
「一度、民に差し出した手を引っ込めろと言うのか? 王族である僕に?」
「……評判は、まぁ下がるかもしれませんね。しかし、この傾向ならば火種が大きくなる前に手を引くべきでしょう」
「しかし、手を差し伸べなければ困る民が出る」
「……思うのですが、ラカン殿下」
「なんだい、ヴァリス」
「殿下が救済し、引き上げるべきと考える民の基準とは?」
「……? 見ていられない生活をしている者たち、といったところだが」
今さら言うまでもないことだろうに。
「僭越ながら、殿下は領主ではありません。王族と民の関係ではあるものの、正式な担当地区は元々の支援区域となっています。現状の情報と計画をまとめた資料を……そうですね。改めて王太子殿下に見せ、相談されるべきかと」
「兄上の手をわずらわせるのか?」
「民のためならば、王太子殿下もむげにはされないかと」
「しかし、妥当な支援要請のように思う。だというのに、なぜ」
「かもしれません。ですが、こちらが対応できる限度があります。駆け引きも必要かと」
「……相手がごねるぐらいなら支援を遅らせる、または手を引く、と?」
「そうです。緊急性のある救援要請ならば真摯に応えるべきですが、今回の件では、より慎重に対応なさるべきです」
ヴァリスの言うことはわかる。
B街からの陳情は、真剣に助けを求めたものとは少し違う気配があった。ただ、それでも。
困っている者たちに手を差し伸べられない理由は、こちらの余力不足だ。
不満など持たせないぐらいの資源を投入できれば皆が救われるというのに。
「レティシアがいればなぁ……」
「……ラカン殿下」
「……わかっているさ。まだ王都に戻っていない彼女には頼れない」
微々たるものであるが日々積み重なっていく、もどかしさのようなもの。
レティシアに会えなくなってから、そろそろ一ヶ月が経つ。
夜会用のドレスも魔術師団に問い合わせてサイズを確認し、用意させた。
「前回は断られたが……」
ドレスまで用意したんだ。気が変わるかもしれないし。
改めてレティシアに手紙を送るのもいいかもしれないな。
「……そのようですね」
貧民地区の支援活動、その元々の担当区域ではなく、今回、新たに手を出し始めた区域での報告を受け取っての話だ。
「なぜだ? 初期の支援計画は前回の経験を踏まえた上で行なったもの。今回はその上、前回の区域よりは比較的にはマシな状況の区域への支援だ。不足なことが起きるとは思えないが」
「……おそらくですが、民の求める水準が上がっているのでは?」
「どういうことだ?」
「詳しくは調べて確認しないとなりませんが、手元に届いた陳情書を見ますと」
私はヴァリスとともに改めて陳情書を確認する。どう言えばいいだろうか。
仮に最初の支援区域を『A街』としよう。次に手がけた場所は『B街』だ。
B街からの陳情には『A街よりも手厚い支援を求む』『A街よりも豊かな街にしてほしい』といった類の意見が見られた。
街に対する愛着心が強い地区なのだろうか?
僕が手がけてきた、これまでの支援計画の話も伝わっているらしい。
AとBの街は別に隣接地域ではなく、王都でも離れた場所にある。
そこまで対立関係があるとは思えないが……?
「結局、何を求めているんだ? 支援計画の前倒しか?」
「……より高水準の支援ですね。たとえば、あちらに銅を配ったのなら、こちらには銀を寄越せ、というような」
「……なんだそれは」
なぜそんなことを言い出す?
貧しい民たちのもとに、ほぼ対価もなくもたらされる支援だ。
状況に沿わずに迷惑という陳情ならば理解できるが、ただの高望み?
「……何も一区域の人間が一致団結しての意見ではないと思いますね。殿下の支援計画に便乗した、何者かが支援を理由に王家から資金を得ようとしている可能性もあります」
「なんだと?」
「あくまで推測のひとつですがね。慎重にはなるべきかと」
民の貧困を利用して私腹を肥やそうという人間がいる可能性か。
もし、そんな者がいるのなら、なんと不届きな者だろう。
僕とヴァリスはB街の調査を改めて行うことになった。
……調査に時間を取ると、確かに民には不満の声が広がっている。
しかし、彼らを扇動した者は見つからない。
何者かが裏にいるのか。
それとも、これが彼らの正直な気持ちなのか。
「このままでは」
支援計画を進めても不満が高まるばかりだな。
『A街よりも手厚く』……そう実感しないと納得しないような雰囲気だ。
これは最悪な空気と言っていいだろう。
元々のA街を知っている僕からすれば、彼らよりも随分とマシな地域なのに。
「どうすればいいと思う? ヴァリス」
「……キリの良く、納得される範囲であの地区への支援を切り上げるのがベストですね。元より当初の予算を考えれば、あちらまで手が回るはずがなかったのです」
「一度、民に差し出した手を引っ込めろと言うのか? 王族である僕に?」
「……評判は、まぁ下がるかもしれませんね。しかし、この傾向ならば火種が大きくなる前に手を引くべきでしょう」
「しかし、手を差し伸べなければ困る民が出る」
「……思うのですが、ラカン殿下」
「なんだい、ヴァリス」
「殿下が救済し、引き上げるべきと考える民の基準とは?」
「……? 見ていられない生活をしている者たち、といったところだが」
今さら言うまでもないことだろうに。
「僭越ながら、殿下は領主ではありません。王族と民の関係ではあるものの、正式な担当地区は元々の支援区域となっています。現状の情報と計画をまとめた資料を……そうですね。改めて王太子殿下に見せ、相談されるべきかと」
「兄上の手をわずらわせるのか?」
「民のためならば、王太子殿下もむげにはされないかと」
「しかし、妥当な支援要請のように思う。だというのに、なぜ」
「かもしれません。ですが、こちらが対応できる限度があります。駆け引きも必要かと」
「……相手がごねるぐらいなら支援を遅らせる、または手を引く、と?」
「そうです。緊急性のある救援要請ならば真摯に応えるべきですが、今回の件では、より慎重に対応なさるべきです」
ヴァリスの言うことはわかる。
B街からの陳情は、真剣に助けを求めたものとは少し違う気配があった。ただ、それでも。
困っている者たちに手を差し伸べられない理由は、こちらの余力不足だ。
不満など持たせないぐらいの資源を投入できれば皆が救われるというのに。
「レティシアがいればなぁ……」
「……ラカン殿下」
「……わかっているさ。まだ王都に戻っていない彼女には頼れない」
微々たるものであるが日々積み重なっていく、もどかしさのようなもの。
レティシアに会えなくなってから、そろそろ一ヶ月が経つ。
夜会用のドレスも魔術師団に問い合わせてサイズを確認し、用意させた。
「前回は断られたが……」
ドレスまで用意したんだ。気が変わるかもしれないし。
改めてレティシアに手紙を送るのもいいかもしれないな。