黄金のレティシア ~献身的な令嬢でしたが日々のブラックな慈善生活に疲れてしまいましたので、そろそろ自分の幸せを考えたいと思います~
27 思い出②
「──そっちに行くと危ないわよ」
「……誰、お前?」
その男の子は、綺麗な銀色の髪をしていました。
カーン領では珍しく、見たことがない色です。
私の金髪でさえ珍しく、私は勝手に仲間を見つけた気持ちで、彼のあとを追いかけました。
すると、どうでしょう?
少年は、入ってはいけないと言われている危ない地域へと歩みを進めるではありませんか。
だから私は、思わず隠れるのをやめて少年の前に姿を現しました。
「わたし? わたしはレティシアよ!」
ふふん! と胸を張って答えます。
なぜか名前を名乗っただけで自信満々な私。
まぁ、これでもカーン領の中だけでは、お姫様扱いといいますか。
同年代の子供たちからも慕われる存在ですし?
「知らねーよ」
「あら」
私のことを知らないなんて!
けっこう有名? だと思っていた私は、びっくりしました。
迷子さんかしら? なら、お姉さんが付き添ってあげなきゃね!
「どこ行くの? 貴方」
とてとて。と歩いて彼についていく私。
「なんだよ、ついてくるなよ」
とてとて。と立ち去ろうとする彼。
「そっちに行くと危ないんだよ。廃鉱山っていって、崩れたりして」
とてとて。
「危ないからいいんじゃないか」
とてとて。
「そうなの?」
「洞窟の中にはお宝や、ドラゴンがいるんだよ」
とてとて。とてとて。
「まぁ、本当⁉ わたし、それ見たいわ!」
「危ないからついてくるなって」
「危ないなら貴方も行っちゃダメよ?」
ピッタリと私は彼から離れませんでした。
「……面倒くさいなぁ」
「行くの、やめちゃうの?」
洞窟のお宝やドラゴン、私も見たかったのに。
男の子は、キラキラした銀色の髪と、宝石みたいな青色の瞳をしていました。
カーン領にはいないタイプの男の子です。思わず見惚れてしまうぐらい。
「……」
「……」
無言で見つめ合う私たち。
互いに黙ったままでしたので、そのうち、私の方が首を傾げました。
「どうしたの?」
「な、なんでもねーよ!」
男の子は真っ赤に頬を染めて、焦ったように顔を背けました。
途端、走り出そうとしたので、私はむんず! と彼の服を引っ張りました。
「ふご!」
引っ張られてコケる銀髪の男の子。
「痛って! 何するんだよ!」
「わたしも一緒に行きたい!」
「はぁ?」
私たちは、その場でああだこうだと言い合いながら、一緒に行く行かないと話し合いました。
その間、決して私は彼の服を離しません。
ええ、一緒に行くと彼が首を縦に振るまでは。
「はぁ……はぁ……」
「ふふふ!」
「もう……いいよ。一緒に来いよ」
「え、いいの?」
「いいって言うまで離さないじゃんか、お前」
「そうだね! えへへ」
「えへへ、じゃない」
こうして私は銀髪の男の子と知り合いました。
男の子の名前は、メルウィック。迷子のメルウィックくんです。
「ワクワクねー!」
ニヘラヘラと私は呑気に笑います。
メルウィックくんは、とても頼りになる雰囲気なので色々と任せても大丈夫そう。
だから楽しい冒険です! ふふふ。
「……まったく。とんでもないガキンチョだ」
「えー?」
メルウィックくんは、子供なのにお金をちゃんと持っていて、山から引き返すと、色々と持ち物を買って揃えていました。
「これはなぁに? なにするの?」
「これがあれば、どこでも寝られるだろ」
「どこでも?」
「外だよ」
「お外で!? お外で眠るの? 楽しみだわ!」
とっても冒険よね!
「……はぁ」
メルウィックくんは私を見て、あきれた顔をしながらも、色々と揃えてくれているようでした。
「荷物、重くなぁい?」
「こんなのは軽くすればいいんだ」
「軽くする??」
フワリとメルウィックくんは、まとめた荷物を浮かせました!
「まぁ! どういうことなの?」
「魔法だよ。風魔法の応用。包んだものを浮かせることができる」
「魔法!」
私はキラキラと目を輝かせました。
「メルウィックくんは魔法使いなんだね! すごいね!」
カーン領では魔法使いはいません。
他の領地や王都にはいるって聞くけど、遠い場所のことは知らないので。
「メルウィックくんは外の国から来たの?」
「外の国って……外国か? 違うよ。俺もパシヴェル王国出身だよ」
「まぁ!」
よくわからないわ!
カーン領のご近所に住んでいるのかしら?
「近くに住んでいるのなら、これからも一緒に遊べるね!」
「いや、近くには……」
「ん?」
「……まぁいいや。それより行くぞ。一緒に来るんなら離れるなよな」
「はぁい!」
私はメルウィックくんの手を取り、手をつないで一緒に歩き始めました。
初めての冒険の始まりです! ふふふ。
森に分け入り、彼と一緒に歩いていきます。
「虫は苦手か?」
「んー? 平気だけど、あんまり好きじゃないかな!」
「そっか。じゃあ、一応はこうだ」
と、メルウィックくんが私たちの周りに何かを振りかけました。
魔法の……なんだろう? 霧?
「虫除け効果のある匂い魔法だ。身体をコーティングもするから引っ付かれもしないぞ」
「すごいね! メルウィックくん!」
「ふ、ふん!」
よくわからないけど! うふふ!
ずんずんと二人して森の中を歩いていきます。
森の道は険しくて、すぐ転びそうになりますが、そのたびにフワリフワリと体が浮かんで、ことなきをえました。
「あはは! 私も浮いてるー!」
「世話の焼けるガキンチョだなぁ……」
メルウィックくんはなんでもできる子でした。
なので冒険は楽しさしかありません。
やがて歩いていった先に洞窟が見えてきました。
鎖と木の杭で入り口が塞がれ、看板が立っています。
「あれが目的地? 宝物とドラゴン、いる?」
「そうだ。あの中には冒険が待っているんだ、へへ」
「メルウィックくん、楽しそう。私も楽しい!」
私たちは、すっかりと仲良くなり始めていました。
メルウィックくんは今まで一人だったのか、色々と話すこと自体が楽しそうでしたし。
私も彼のお話を聞くのが楽しかったんです。
「じゃあ行こっ!」
「待て待て」
今度はメルウィックくんが私を引き止めます。
「どうしたの?」
「今日はもう遅いからな。洞窟の中に入るのは、また明日だ」
「えー……」
「今日は、もうここで野宿するぞ」
「野宿!」
初めての経験に私はやっぱりワクワクしました。
テントとか張るのかな? と思っているとメルウィックくんは膝を突いて地面に手を触れました。
すると、ボコボコと地面が波打ち、壁を作り、柱を作り、天井も作ってしまいました。
それから四角い台をボコリと浮き上がらせると、その上に花が生えてきました?
「わぁああ! すごい、すごぉい!」
「ふん! そうだ。すごいだろ」
「うん! すごいよ、こんなの見たことない!」
花はフワフワでたくさん生えてきます。柔らかそうで、いい匂い。
「で、これに布を被せるんだ。はい、これでベッドのできあがり」
「わぁ!」
窓の穴の開いた土の壁。土の天井。それを支える柱。そして中には花のベッド!
「枕は? 枕はどうするの? お布団は?」
「……布団は布があればいいだろ。枕は……要るか?」
「要るー!」
枕があった方が気持ちよく眠れるよね!
「ほんと、世話のやける……」
メルウィックくんは、今度は枕の元になるような? 袋を魔法で生み出しました。
その中に水? を入れて膨らませます。
「こんな感じか?」
と、手渡された小さな枕。
手触りはフワフワ。透き通っていて、チャプンと中で水音がします。
「これ、破れたりしないの?」
「硬いので突き刺したりしないなら、たぶん平気だ」
「そうなの! すごいね!」
ベッドも枕も彼が用意して。
「じゃあ寝よー!」
「一緒に寝るのかよ」
「え? じゃあ、どこで寝るの?」
「……まぁ、そうだけどさ。いいか、子供だし」
と。私たちは同じ布団で眠りました。
メルウィックくんのお話をたくさん聞いているうちに眠くなって、スヤスヤと朝まで。
なかなか寝心地がいいベッドでした。
翌朝になり、いよいよ私たちは洞窟の中へと入り込んでいきます。
「宝箱ー、ドラゴンー」
私はメルウィックくんと手をつないだまま。
彼が指先に灯す明かりを頼りにズンズン奥へ奥へと進んでいきます。
でも宝箱はなかなか見つかりません。それにドラゴンも。
だけど、私はとても楽しかったです。
メルウィックくんと一緒に冒険すること、それ自体が宝物のような時間でした。
「なーんにもないなー」
「そうだねー」
メルウィックくんは私が疲れないように時折、休憩を挟んだり、体を浮かせたりしてくれました。
それに道に迷わないように空中に地図を描いてくれたんです。
そのおかげで一度行った道にまた戻るということもなく。
「あとは、この道かな?」
「メルウィックくんは本当にすごいね!」
「ん?」
「色んなことができるんだ」
「まぁな。俺はなんでもできるんだ」
「私も何かできるかな?」
「……魔法で、か?」
「うん!」
魔法。私も使ってみたいと思いました。
メルウィックくんのように色々とできるのもいいですね。
「教えてくれるの?」
「……まぁ、いいけど」
洞窟探検を続けながら、私はメルウィックくんから魔法を教わりました。
「魔力、魔力……むむむ!」
「うん。お前……レティは、魔法を使う才能はあるよ。確かに魔力が動いている」
「本当? やったぁ! じゃあ、メルくんと一緒に私、魔法使いになるね!」
「そうだな」
「うん! そしたら……結婚だね!」
「は!?」
ふふふ、メルくんと魔法使い人生。
色んな場所を冒険するんです。楽しみですね。
「なんで結婚なんて話になるんだよ!」
「え、嫌?」
「い……や、とかじゃ、ないけど。話が飛びすぎ……」
「でも、お父さんやお母さんは早いうちに結婚するのがキゾクって言ってたよ?」
「ん。あー……。うん。まぁ、うん。それは……うん」
よくわからないけど、メルくんは困っていたみたい。
でも困っている顔も可愛かったんだ。
洞窟の中をたくさん探しまわって。でも、何も見つからずに半日がすぎたの。
「……もう出るか」
「何も見つからなかったねー」
「そうだな」
「でも楽しかった!」
「ん……。そうだな」
そうして。冒険の終わりの時。
やっぱりこのまま終わるのはダメかな、なんて。
この時の私は思ったんだと思います。
「宝物、ドラゴン。そういうのがあったら冒険には最高かな?」
「ん?」
洞窟の出口まで辿り着くと私は振り向きました。
「魔法で作っちゃうなんてどうかな? ドラゴンも、宝物も」
「魔法で生物を? それは……んー。できる、かな?」
「やってみよー!」
「え、おい!」
パチリ。
意識した魔力は、とてもキラキラと輝いて見えるものでした。
私には魔法の才能がある。メルくんと同じぐらい。
それを証明したくて。イメージそのままに初めての魔法を使いました。
「────!」
ものすごい流れ。魔力がどんどん溢れ出し、流れ出ていきます。
そして強引に形を成していく。
無理矢理に魔力の多さで押し切る魔法行使。
理論も何もないソレは……黄金に輝くドラゴンを生み出しました。
「な……、本当に」
「あっ」
ストンと私は、その場に尻餅をつきました。
「レティ!?」
「あぅ。力抜けちゃった……」
ありったけの魔力を注ぎ込んだ。それで作られた黄金のドラゴン。
……それは私たちの冒険の締めくくりのために生み出された『脅威』でした。
「なっ、まさか!」
『────』
だから、ドラゴンはノロノロと私たちに襲いかかってきたんです。
「あ、危ない……」
魔力を使い果たしてフラフラの私。そして迫るドラゴン。
ゆっくりと振り上げられる腕に、長いツメ。
(あ、これは……)
幼い私も何かを察しました。これはいけないことだ、と。
「──ごめ、私」
「……ぁあああ!」
バキン!! と光の幕にドラゴンのツメが突き刺さり、止まりました。
「レティに触るな、モンスター!」
それからどうして助かったのか。鮮明な記憶はありません。
たぶん、魔力の使い過ぎだったのでしょう。
気づけばメルくんは肩で息をしながら、私のことを抱き締めていました。
「メルくん……ごめんなさい……私」
「……はぁ。……ん。大丈夫。怪我なんて、ないよ」
私たちは二人とも無事でした。
でも、楽しい思い出は、最後に私のせいで恐ろしいものになってしまっんです。
「……レティには、すごい才能があるね」
「えぅ、うぅ……」
気づけば私は泣いていました。
「……でも、おっかないな。キミはまだ、魔法を使わない方がいいと思う」
「うぅぅ! メルくん、メルくん……」
「すごいな。俺よりもすごい子がいるんだ。うん……。いい冒険だったよ。でも、ね」
「メル、くん?」
「……レティが、その力で誰かを傷つけてしまわないように。そういう祈りを込めるよ。俺、なんでもできるからね」
「え?」
「レティ。レティシア・カーン。大きくなったら、また会おう。それまで魔法はお預け。……俺との思い出もお預けだ。このことを覚えていて、傷ついてほしくないし。キミの魔法を制御できる人がいるかもわからない。……だから、俺がそうなるよ。レティ、キミの魔法が……人を幸せにする魔法になりますように」
「あっ、メル、くん……」
──そうして。
私の思い出は光と共に記憶の奥底に封印されてしまいました。
魔法のことも、メルウィックという少年のことも……。
「……誰、お前?」
その男の子は、綺麗な銀色の髪をしていました。
カーン領では珍しく、見たことがない色です。
私の金髪でさえ珍しく、私は勝手に仲間を見つけた気持ちで、彼のあとを追いかけました。
すると、どうでしょう?
少年は、入ってはいけないと言われている危ない地域へと歩みを進めるではありませんか。
だから私は、思わず隠れるのをやめて少年の前に姿を現しました。
「わたし? わたしはレティシアよ!」
ふふん! と胸を張って答えます。
なぜか名前を名乗っただけで自信満々な私。
まぁ、これでもカーン領の中だけでは、お姫様扱いといいますか。
同年代の子供たちからも慕われる存在ですし?
「知らねーよ」
「あら」
私のことを知らないなんて!
けっこう有名? だと思っていた私は、びっくりしました。
迷子さんかしら? なら、お姉さんが付き添ってあげなきゃね!
「どこ行くの? 貴方」
とてとて。と歩いて彼についていく私。
「なんだよ、ついてくるなよ」
とてとて。と立ち去ろうとする彼。
「そっちに行くと危ないんだよ。廃鉱山っていって、崩れたりして」
とてとて。
「危ないからいいんじゃないか」
とてとて。
「そうなの?」
「洞窟の中にはお宝や、ドラゴンがいるんだよ」
とてとて。とてとて。
「まぁ、本当⁉ わたし、それ見たいわ!」
「危ないからついてくるなって」
「危ないなら貴方も行っちゃダメよ?」
ピッタリと私は彼から離れませんでした。
「……面倒くさいなぁ」
「行くの、やめちゃうの?」
洞窟のお宝やドラゴン、私も見たかったのに。
男の子は、キラキラした銀色の髪と、宝石みたいな青色の瞳をしていました。
カーン領にはいないタイプの男の子です。思わず見惚れてしまうぐらい。
「……」
「……」
無言で見つめ合う私たち。
互いに黙ったままでしたので、そのうち、私の方が首を傾げました。
「どうしたの?」
「な、なんでもねーよ!」
男の子は真っ赤に頬を染めて、焦ったように顔を背けました。
途端、走り出そうとしたので、私はむんず! と彼の服を引っ張りました。
「ふご!」
引っ張られてコケる銀髪の男の子。
「痛って! 何するんだよ!」
「わたしも一緒に行きたい!」
「はぁ?」
私たちは、その場でああだこうだと言い合いながら、一緒に行く行かないと話し合いました。
その間、決して私は彼の服を離しません。
ええ、一緒に行くと彼が首を縦に振るまでは。
「はぁ……はぁ……」
「ふふふ!」
「もう……いいよ。一緒に来いよ」
「え、いいの?」
「いいって言うまで離さないじゃんか、お前」
「そうだね! えへへ」
「えへへ、じゃない」
こうして私は銀髪の男の子と知り合いました。
男の子の名前は、メルウィック。迷子のメルウィックくんです。
「ワクワクねー!」
ニヘラヘラと私は呑気に笑います。
メルウィックくんは、とても頼りになる雰囲気なので色々と任せても大丈夫そう。
だから楽しい冒険です! ふふふ。
「……まったく。とんでもないガキンチョだ」
「えー?」
メルウィックくんは、子供なのにお金をちゃんと持っていて、山から引き返すと、色々と持ち物を買って揃えていました。
「これはなぁに? なにするの?」
「これがあれば、どこでも寝られるだろ」
「どこでも?」
「外だよ」
「お外で!? お外で眠るの? 楽しみだわ!」
とっても冒険よね!
「……はぁ」
メルウィックくんは私を見て、あきれた顔をしながらも、色々と揃えてくれているようでした。
「荷物、重くなぁい?」
「こんなのは軽くすればいいんだ」
「軽くする??」
フワリとメルウィックくんは、まとめた荷物を浮かせました!
「まぁ! どういうことなの?」
「魔法だよ。風魔法の応用。包んだものを浮かせることができる」
「魔法!」
私はキラキラと目を輝かせました。
「メルウィックくんは魔法使いなんだね! すごいね!」
カーン領では魔法使いはいません。
他の領地や王都にはいるって聞くけど、遠い場所のことは知らないので。
「メルウィックくんは外の国から来たの?」
「外の国って……外国か? 違うよ。俺もパシヴェル王国出身だよ」
「まぁ!」
よくわからないわ!
カーン領のご近所に住んでいるのかしら?
「近くに住んでいるのなら、これからも一緒に遊べるね!」
「いや、近くには……」
「ん?」
「……まぁいいや。それより行くぞ。一緒に来るんなら離れるなよな」
「はぁい!」
私はメルウィックくんの手を取り、手をつないで一緒に歩き始めました。
初めての冒険の始まりです! ふふふ。
森に分け入り、彼と一緒に歩いていきます。
「虫は苦手か?」
「んー? 平気だけど、あんまり好きじゃないかな!」
「そっか。じゃあ、一応はこうだ」
と、メルウィックくんが私たちの周りに何かを振りかけました。
魔法の……なんだろう? 霧?
「虫除け効果のある匂い魔法だ。身体をコーティングもするから引っ付かれもしないぞ」
「すごいね! メルウィックくん!」
「ふ、ふん!」
よくわからないけど! うふふ!
ずんずんと二人して森の中を歩いていきます。
森の道は険しくて、すぐ転びそうになりますが、そのたびにフワリフワリと体が浮かんで、ことなきをえました。
「あはは! 私も浮いてるー!」
「世話の焼けるガキンチョだなぁ……」
メルウィックくんはなんでもできる子でした。
なので冒険は楽しさしかありません。
やがて歩いていった先に洞窟が見えてきました。
鎖と木の杭で入り口が塞がれ、看板が立っています。
「あれが目的地? 宝物とドラゴン、いる?」
「そうだ。あの中には冒険が待っているんだ、へへ」
「メルウィックくん、楽しそう。私も楽しい!」
私たちは、すっかりと仲良くなり始めていました。
メルウィックくんは今まで一人だったのか、色々と話すこと自体が楽しそうでしたし。
私も彼のお話を聞くのが楽しかったんです。
「じゃあ行こっ!」
「待て待て」
今度はメルウィックくんが私を引き止めます。
「どうしたの?」
「今日はもう遅いからな。洞窟の中に入るのは、また明日だ」
「えー……」
「今日は、もうここで野宿するぞ」
「野宿!」
初めての経験に私はやっぱりワクワクしました。
テントとか張るのかな? と思っているとメルウィックくんは膝を突いて地面に手を触れました。
すると、ボコボコと地面が波打ち、壁を作り、柱を作り、天井も作ってしまいました。
それから四角い台をボコリと浮き上がらせると、その上に花が生えてきました?
「わぁああ! すごい、すごぉい!」
「ふん! そうだ。すごいだろ」
「うん! すごいよ、こんなの見たことない!」
花はフワフワでたくさん生えてきます。柔らかそうで、いい匂い。
「で、これに布を被せるんだ。はい、これでベッドのできあがり」
「わぁ!」
窓の穴の開いた土の壁。土の天井。それを支える柱。そして中には花のベッド!
「枕は? 枕はどうするの? お布団は?」
「……布団は布があればいいだろ。枕は……要るか?」
「要るー!」
枕があった方が気持ちよく眠れるよね!
「ほんと、世話のやける……」
メルウィックくんは、今度は枕の元になるような? 袋を魔法で生み出しました。
その中に水? を入れて膨らませます。
「こんな感じか?」
と、手渡された小さな枕。
手触りはフワフワ。透き通っていて、チャプンと中で水音がします。
「これ、破れたりしないの?」
「硬いので突き刺したりしないなら、たぶん平気だ」
「そうなの! すごいね!」
ベッドも枕も彼が用意して。
「じゃあ寝よー!」
「一緒に寝るのかよ」
「え? じゃあ、どこで寝るの?」
「……まぁ、そうだけどさ。いいか、子供だし」
と。私たちは同じ布団で眠りました。
メルウィックくんのお話をたくさん聞いているうちに眠くなって、スヤスヤと朝まで。
なかなか寝心地がいいベッドでした。
翌朝になり、いよいよ私たちは洞窟の中へと入り込んでいきます。
「宝箱ー、ドラゴンー」
私はメルウィックくんと手をつないだまま。
彼が指先に灯す明かりを頼りにズンズン奥へ奥へと進んでいきます。
でも宝箱はなかなか見つかりません。それにドラゴンも。
だけど、私はとても楽しかったです。
メルウィックくんと一緒に冒険すること、それ自体が宝物のような時間でした。
「なーんにもないなー」
「そうだねー」
メルウィックくんは私が疲れないように時折、休憩を挟んだり、体を浮かせたりしてくれました。
それに道に迷わないように空中に地図を描いてくれたんです。
そのおかげで一度行った道にまた戻るということもなく。
「あとは、この道かな?」
「メルウィックくんは本当にすごいね!」
「ん?」
「色んなことができるんだ」
「まぁな。俺はなんでもできるんだ」
「私も何かできるかな?」
「……魔法で、か?」
「うん!」
魔法。私も使ってみたいと思いました。
メルウィックくんのように色々とできるのもいいですね。
「教えてくれるの?」
「……まぁ、いいけど」
洞窟探検を続けながら、私はメルウィックくんから魔法を教わりました。
「魔力、魔力……むむむ!」
「うん。お前……レティは、魔法を使う才能はあるよ。確かに魔力が動いている」
「本当? やったぁ! じゃあ、メルくんと一緒に私、魔法使いになるね!」
「そうだな」
「うん! そしたら……結婚だね!」
「は!?」
ふふふ、メルくんと魔法使い人生。
色んな場所を冒険するんです。楽しみですね。
「なんで結婚なんて話になるんだよ!」
「え、嫌?」
「い……や、とかじゃ、ないけど。話が飛びすぎ……」
「でも、お父さんやお母さんは早いうちに結婚するのがキゾクって言ってたよ?」
「ん。あー……。うん。まぁ、うん。それは……うん」
よくわからないけど、メルくんは困っていたみたい。
でも困っている顔も可愛かったんだ。
洞窟の中をたくさん探しまわって。でも、何も見つからずに半日がすぎたの。
「……もう出るか」
「何も見つからなかったねー」
「そうだな」
「でも楽しかった!」
「ん……。そうだな」
そうして。冒険の終わりの時。
やっぱりこのまま終わるのはダメかな、なんて。
この時の私は思ったんだと思います。
「宝物、ドラゴン。そういうのがあったら冒険には最高かな?」
「ん?」
洞窟の出口まで辿り着くと私は振り向きました。
「魔法で作っちゃうなんてどうかな? ドラゴンも、宝物も」
「魔法で生物を? それは……んー。できる、かな?」
「やってみよー!」
「え、おい!」
パチリ。
意識した魔力は、とてもキラキラと輝いて見えるものでした。
私には魔法の才能がある。メルくんと同じぐらい。
それを証明したくて。イメージそのままに初めての魔法を使いました。
「────!」
ものすごい流れ。魔力がどんどん溢れ出し、流れ出ていきます。
そして強引に形を成していく。
無理矢理に魔力の多さで押し切る魔法行使。
理論も何もないソレは……黄金に輝くドラゴンを生み出しました。
「な……、本当に」
「あっ」
ストンと私は、その場に尻餅をつきました。
「レティ!?」
「あぅ。力抜けちゃった……」
ありったけの魔力を注ぎ込んだ。それで作られた黄金のドラゴン。
……それは私たちの冒険の締めくくりのために生み出された『脅威』でした。
「なっ、まさか!」
『────』
だから、ドラゴンはノロノロと私たちに襲いかかってきたんです。
「あ、危ない……」
魔力を使い果たしてフラフラの私。そして迫るドラゴン。
ゆっくりと振り上げられる腕に、長いツメ。
(あ、これは……)
幼い私も何かを察しました。これはいけないことだ、と。
「──ごめ、私」
「……ぁあああ!」
バキン!! と光の幕にドラゴンのツメが突き刺さり、止まりました。
「レティに触るな、モンスター!」
それからどうして助かったのか。鮮明な記憶はありません。
たぶん、魔力の使い過ぎだったのでしょう。
気づけばメルくんは肩で息をしながら、私のことを抱き締めていました。
「メルくん……ごめんなさい……私」
「……はぁ。……ん。大丈夫。怪我なんて、ないよ」
私たちは二人とも無事でした。
でも、楽しい思い出は、最後に私のせいで恐ろしいものになってしまっんです。
「……レティには、すごい才能があるね」
「えぅ、うぅ……」
気づけば私は泣いていました。
「……でも、おっかないな。キミはまだ、魔法を使わない方がいいと思う」
「うぅぅ! メルくん、メルくん……」
「すごいな。俺よりもすごい子がいるんだ。うん……。いい冒険だったよ。でも、ね」
「メル、くん?」
「……レティが、その力で誰かを傷つけてしまわないように。そういう祈りを込めるよ。俺、なんでもできるからね」
「え?」
「レティ。レティシア・カーン。大きくなったら、また会おう。それまで魔法はお預け。……俺との思い出もお預けだ。このことを覚えていて、傷ついてほしくないし。キミの魔法を制御できる人がいるかもわからない。……だから、俺がそうなるよ。レティ、キミの魔法が……人を幸せにする魔法になりますように」
「あっ、メル、くん……」
──そうして。
私の思い出は光と共に記憶の奥底に封印されてしまいました。
魔法のことも、メルウィックという少年のことも……。