黄金のレティシア ~献身的な令嬢でしたが日々のブラックな慈善生活に疲れてしまいましたので、そろそろ自分の幸せを考えたいと思います~

26 救出と求愛

 私は誘拐され、目隠しと猿轡をされ、後ろ()に拘束されています。
 どうやら馬車に乗せられて、どこかに運ばれているようです。
 周囲の様子から、私のことは荷物の一部のように偽装しているみたいです。
 大きめの布を体全体に被せられています。

 私は身を固めて守ることにしました。黄金の身体保護魔法を使います。
 魔法属性が黄金であるせいか、体の周りに展開する結界系よりも、体の表面に張り巡らせるタイプの方が使いやすく感じます。

 ただ結界系と違って他人を弾くのは難しい。
 ナイフや剣が肌に通らないようにし、衣服を脱がそうするのを防ぐ。
 触れようとしても間に金の板があって触れられない、人の肌に触れた感触が伝わらない。
 そんな魔法になっています。
 〝黄金の彫像〟になってしまう魔法ですね。

 殺傷目的の強力な魔法を撃たれたらどうなるかわかりませんが、誘拐や監禁……体が目的の相手であれば、穢されることもなく身を守り続けられるはずです。
 ただし、彫像化した体を丸ごと運ぼうとする相手には抵抗しないとどうにもなりません。
 こうなった私は、かなり重い気がしますけど……。
 中身までは黄金じゃありませんから、そうでもないでしょうか?

 それにしても誘拐犯なのに私の魔法を封じてこない?
 魔封じという、他人の魔法を封じる技術は存在します。なのに?

 ……いえ、この手応え。魔法行使の妨害はされている気配がします。
 メルウィック様が言うには、黄金魔法は究極の魔法の一つ、でしたね。

 つまり、何者かの魔封じは私の魔法を抑え切れていない?
 とはいえ、私は攻撃魔法が不得意です。金の針程度の魔法が関の山。
 ここで暴れても相手を倒すことはできないでしょう。

 黄金の彫像化をしていることは、まだ気づかれてはいませんね。
 私を誘拐した彼らは何者なのでしょうか。
 ラカン殿下からのお手紙も捏造ということですよね。
 王族の手紙を偽造するなんて。許されない行いです。

 また、彼らは私をその場で襲うでもなく、こうして馬車に乗せて、どこかに運んでいます。
 最初から私を誘拐することが目的だった。私の【黄金魔法】に目をつけて?
 以前、カーン領に現れた賊たちと関係があるのでしょうか。
 ……実は私、前々から誰かに狙われています?


 しばらくすると私を乗せた馬車は、どこかの家屋の中へと入ったようです。

「おい、起きろ」

 誰かが私の頬を叩いているようですが、その感触すら私には伝わりません。

「あ?」

 きっと相手には金属に触れたように感じられたでしょう。
 私に被せられていた大きな布が取り払われます。

「こいつ!?」

 誘拐犯の一人が、私の髪の毛を掴もうと手を伸ばしました。
 ですが、私の髪の毛はまとまった状態で黄金の塊になったままでした。
 そのせいで髪の毛を掴んで引っ張ろうとした相手は失敗。
 髪の毛に金の針を仕込んでおいてもよかったかもですね。
 そうしたら一矢報いることができたかもしれません。

「なんだ、どうした?」
「この女、なんかカチカチだ」
「は? カチカチ?」
「髪も掴めねぇし、見ろ、黄金の象みたいになっていやがる」
「あ? だが魔封じは施してあったんだろ」
「ああ、けど、こいつは魔法を使っていやがるんだ」
「……無意識か?」

 あぅ。私の意識があることに気づかれそうですね。
 いえ、別に私、大人しくしていただけで彼らの前で気絶してはいないのですが。

 目隠しも取り払われました。
 黄金の身体保護魔法によって彫像化している私ですが動けないわけではありません。
 あくまで身体保護の魔法ですからね!
 見た目が〝黄金のレティシア象〟になっているだけです。
 視界に映ったのは見たことがない男たちが数人。
 知人ではありません。これは冗談の類ではなく間違いなく犯罪でしょうね。

「お目覚めか、嬢ちゃん」

 ですから私は元から気を失っていません。

「体をうっすら覆っている金の膜、ね。【黄金魔法】が使えるって噂は本当か」

 応える義理もありません。

「けどなぁ……。余計な手間を取らせるなよ? ほら、その無駄な魔法を解除しろ。俺たちが優しくしている間にな」

 ……カチンときました。これは徹底抗戦ですね!
 やはり彼らは魔封じを私に施している。
 ですが、私の魔力出力の方が高いせいでそれは意味を成していません。
 であれば魔封じの媒介となっている品を特定し、金の針で乱すなり何かすれば……?

「むぅ……!」

 猿轡を内側から、魔法の金の針を生み出してプスプスと刺します。時間がかかりますね。
 もう少しこう……尖っていても平気、でしょうか?
 黄金の、黄金の……ハサミ! 合わさる刃の原理で少ない力で布を切る道具!

 ──チョキン!

 と。私の口を塞いでいた布が切り落とされました。
 黄金のハサミの生成と、その魔法操作。メルウィック様との魔法鍛錬が役に立ちました!

「あ、てめぇ⁉」
「こいつ、大人しくしてろ!」
「大人しくはしているじゃないですか!」

 襲いかかってくる誘拐犯たち。
 ですが、今の私は……メッキの貼られた黄金の塊!
 相手の暴力は痛くなく、触れた感触すらしません!
 針、ハサミ、とくれば……なるほど。連想イメージです。
 お次は〝金の糸〟などどうでしょう!

 手を上げようとする男は、予想外の私の硬い外殻に阻まれ、タタラを踏みます。
 そこに巻きつくは金の糸! ぐるぐると絡まるように男の手に糸が絡まりました。
 殺傷能力、拘束力、ほぼまるでなし。完全に嫌がらせの反撃ですね、これ。

「貴方たちは何なのですか? なぜ私をさらうのです」
「テメェは知らなくていいんだよ!」
「私のことなのに知らなくていいわけないでしょう!」
「ハッ! お前はもう、これからずっと日陰で生きるんだよ! 黄金を産んで! 男に慰み者にされながらな!」

 監禁が目的? やはり黄金狙い。さらに人様の体をついで扱いですか!
 ふざけないでほしいですね!

「誰がそんなことを。私をカーン伯爵家の娘と知っての狼藉ですか」
「ハッ! 貴族がお前一人だとでも? お前じゃなくても貴族様はいるんだよ!」

 ……つまり、他家の貴族が私をさらった?
 ええ……? 王族の手紙を偽ってまでですか?
 そんなの没落確定なのでは。なぜ、どこの家がそこまでのリスクを?

 貧乏でも犯罪に手を染めずにがんばるという選択ができなかったのでしょうか。
 カーン家は長年、貧乏でもがんばっていたんですよ!
 お父様たちは【黄金魔法】で一儲けなんて考えず、きちんと王家に報告しました!

「……聞く限り、貴方たちの発案での誘拐ではない様子。つまり、貴方たちには雇い主がいるのに、私に手を上げるのですか? それが許されるとでも?」
「ははは! 丁重に扱ってもらえるとでも? 残念だったなぁ! お前に手を出すのも許されている、報酬と仕事のうちなんだよ!!」
「……っ!」

 怖い。そして気持ち悪い、です。
 私に手を出すことまで許可済み? なんですか、それは。黄金だけが狙いではないと?
 貴族が黒幕。特殊性癖の男性……? いえ、そもそも女としては求めていませんね。
 では女性が? 犯人? わざわざ貴族令嬢を傷物にする許可を賊に与える。
 私に恨み……嫉妬? ラカン殿下に対する誤解はないガレス嬢は違いますね。
 私の知らない人が、私に対してそこまでの悪意を待っている?

「だからよ。な? 大人しくしろよ。その鬱陶しいだけの魔法を解きな。そうしたら最初だけは優しくしてやるぜ?」

 気持ち悪い。耳も塞いでいればよかった。
 もっと攻撃魔法を極めていれば。

(メルウィック様……)

 目尻に涙が溜まってきましたが、私はキッと男を睨み返しました。
 こうなれば耐え切れるだけ耐えてみせます。

 私の魔力量は……メルウィック様にも匹敵するほど。
 身体防護魔法と、針、糸、ハサミ。これだけで時間を稼いでみせます。
 男たちを倒すには至らなくても。たとえ、何日もかかったって。

『キュイキュイ、キュー』
「……え?」

 覚悟を決めた私のもとへ。一羽のツバメがやってきました。
 窓の隙間からでも入ってきたのか。
 その子はやってきて、私の肩にとまります。

「あ? ツバメ?」

 黄金の欠片は咥えていないけれど、この子は間違いなく彼が生み出した魔法のツバメ。

『キュイキュイ、キュー』

 フワリと魔法のツバメが光へと変わりました。
 そして、私を覆う光の幕の結界になり。

 ──ガシャァンンッ!!

「ぎゃっ!?」

 閃光が煌めき、爆音と共に家屋のドアや壁が吹き飛ばされました。

「──レティシア!」

 顔を上げた先には待ち望んでいた人が。
 彼が手を振り上げると、それだけで男たちが壁に吹っ飛び、叩きつけられていきました。

「ぎゃあ!?」
「ひっ! がぁ!」

 台風でもその場で起きたかのような圧倒的な力による多人数の同時制圧。
 ものの見事に一瞬で私を取り囲んでいた彼らをメルウィック様が退(しりぞ)けてくださいました。

「レティシア! ああ、レティシア……平気? すぐに助けるからね」
「メルウィック様……」

 私を縛っていた拘束も何もかもを取り外すメルウィック様。
 安心したのも束の間。メルウィック様は、私を……強く抱き締めてきました。
 私は安心して力が抜け、黄金の彫像化を解きます。
 いえ、きっと彼に触れて、その存在を感じたくて、自ら魔法を解きました。

「め、メルウィック、様……?」
「レティシア、レティシア……」

 その声色から、とても私を心配して。想っていてくれたのだと理解できました。
 じわりと涙が浮かび、そしてこぼれ落ちます。
 彼の愛は本物で、それは私に向けられている。
 言葉がなくてもそのことが伝わったのです。
 だけど、それだけでは終わりませんでした。

「レティシア、ああ、レティシア……キミを、キミのことを……愛している。ずっと離したくないんだ。キミのそばで……ずっとずっと守らせてくれ」
「メル……ウィック、様……」

 感極まって彼の口から漏れた言葉。そこには計算も打算も演出もなく。
 ただ、純粋に言葉にしてしまったようでした。

「あっ……」

 そういえば。
 私は。

 私は……こうしてメルウィック様に助けてもらうのは……二度目(・・・)です。

 それは以前、十五人の賊に襲われた時とは違う、ずっと幼い頃のこと。
 なんてこと。……なんてことでしょう。

 頭の中で、カチリと音が鳴り、かけられていた鍵が開けられた。
 そんな感覚。

 忘れていた記憶。封じられていた記憶。
 大人しくなった今の私ではない、お転婆だった頃の私。

 途端にあふれ出したのは、幼い頃の彼との思い出だったのです。
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