黄金のレティシア ~献身的な令嬢でしたが日々のブラックな慈善生活に疲れてしまいましたので、そろそろ自分の幸せを考えたいと思います~
04 カーン伯爵家へ
「メルウィック様、よろしかったのですか?」
白銀の髪に青いサファイアの瞳を持つ美形の男性。
『万能の魔法使い』とまで呼ばれた天才、王宮魔術師団・第二師団長のメルウィック・スワロウ様。
四つ歳上の侯爵家の次男様で……私の片思い中の相手です。
彼は、私がカーン伯爵領に帰るよう根回しし、手続きをしてくれた上で道中の護衛まで買って出てくれました。
私の所属は、王宮に上がったはじめの頃はふんわりとした扱いでしたが、しばらくして第二師団の所属になりました。
つまりメルウィック様は私の直属の上司という立場でもあります。
何気に私よりも、私の【黄金魔法】について詳しい方だったりしますね。
「何がだい? レティシア」
「その、第二師団長の貴方が私一人の護衛など」
「王宮勤めの伯爵令嬢に護衛をつけることは、そんなに変なことじゃないよ?」
「でもメルウィック様のような方、自らがなんて……」
「キミの存在が特別だからねぇ」
「えっ!?」
「ん?」
「あ、いえ!」
特別だなんてメルウィック様に言われますと困ります。
いえ、私の『魔法が』特別なのだというのはわかりますけどね!
……ふぅ。
私は一房だけ金髪に戻った前髪を指先で弄びました。
メルウィック様の魔法のツバメが各地に散った私の黄金の、その欠片を拾い集め、生命力として私に還元してくれる。
今の私は生命力を削り過ぎているから、どんどん体調が悪化したけれど、ある程度の生命力を取り戻しさえすれば、きちんと自力で元の体調へと戻れるそうです。
しかし、ひとまずは療養が必要。なにせ王宮で倒れるほどだったので。
王宮からの外出許可や女医の診察結果、各部署への通達などはメルウィック様が済ませてくれていました。
おかげさまで、すんなりと王宮を出発することができ、おまけに護衛はメルウィック様という至れり尽くせりのこの状況。メルウィック様には頭が上がりません。
「カーン伯爵領はね、最近では景気が上向きなんだよ」
「え? そうなのですか?」
「うん。伯爵令嬢であるキミが王宮勤めをして、その分の給金を伯爵に渡している。娘にがんばらせてしまっているんだから、と伯爵夫妻も精を出しているようだ。鉱山が枯れたあとで跡地付近を含む一帯を農地化していた事業もようやく形になってきたようだね。二代前……だから三代続けての閉山した土地の運営だ。時間はかかったけれど、ようやく軌道に乗ってきたんだろう。まだ苦労はするだろうけれど、これからのカーン伯爵領は真っ当な領地に変わっていくと思うよ。運営が健全な、伯爵家相当のね」
それは……嬉しい報せです。
祖父より前の代からのカーン伯爵家の苦労がようやく報われるのですね。
「それでね、もちろん伯爵家の苦労は労いたいのだけど」
「はい」
「カーン伯爵には少し商談があってさ」
「商談ですか? メルウィック様ご本人が?」
「うん、俺個人で伯爵に話をしないといけなくてね」
私は馬車に揺られながら首を傾げました。いったい父になんの御用でしょう?
とはいえ、私の護衛をしてくれているのは、その商談があるから『ついでに』ということなのですね。それはなんとも……まぁ、役得だと思っておきましょうか。
『キュイキュイ、キュー』
「あっ」
またツバメさんです。
本物そっくりに見えますが、メルウィック様の魔力で編まれて生まれた魔法のツバメ。
その証拠に嘴には黄金の欠片が咥えられていました。
「よしよし、おいで」
『キュイキュイ、キュー』
メルウィック様の指先に留まったツバメは可愛らしく鳴き声を上げます。
手乗りツバメ。ふふ、可愛らしいですよねぇ、小鳥さん。
メルウィック様がそうしていると、とても絵になるというか目の保養になると言いますか。
「またひとつ」
嘴の先の黄金は光の塊になり、フワフワと私の元に送られてきました。
この行為を私は王宮にいた時から今に至るまで、すでに十回は受けています。
おかげで一本だけだった黄金の髪が一房分へ。
さらに今また生命力が私に還元されました。
「ふぅ……。心なしか身体が軽くなってきた気がします」
「それは何より。レティシアの気持ちが上を向いてきたんだろうね」
確かに。王宮でクヨクヨと悩んでいた時よりも今はずっと気分が軽いです。
肩に重くのしかかっていた何かがなくなったみたい。
「全部、メルウィック様のおかげです」
私は顔に熱が上がるのを感じながら、誤魔化すように視線を逸らしてから……ふい、と。
彼の顔を見上げました。
そうするとメルウィック様は私をまっすぐに見つめていて優しく微笑んでくださったんです。
(キャー……!)
なんと言いますか。馬車の中、私たちって今、二人きりなんですよね。
もちろん御者席には御者さんがいらっしゃるんですけど。
護衛のためとはわかってはいるんですが、憧れの人とこうして二人きりの空間。
なんだか馬車の進みが殊更にゆっくりに感じますね……!
「……パシヴェル王国もいろんな問題があるよねぇ」
「は、はい! はい?」
なんのお話でしょう?
「貧民救済事業だけじゃないってことさ。なんで王都に貧民が溢れてしまうかというと各領地への手が回り切ってないからなんだよね。閉山した伯爵家に対して王家の支援が十二分だったかというと、そうでもなかったしさ」
「それは……はい。けれど、流石に二代前から今に至るまで、ずっと支援していただくわけにも」
「まぁ、それはそうだけどねー」
なんの気もない、自然体でお喋りする時間をすごしながら馬車は進みます。
ほどなくして私たちを乗せた馬車はカーン伯爵領へと帰ってきました。
「……今の私の姿を見て、お父様とお母様はレティシアだとわかってくれるかしら?」
金色の髪とエメラルドの瞳のままだった私しか知らない両親。
少しだけ金髪は戻ってきたけれど、それ以外は、まだ。
「ああ、実はカーン伯爵夫妻にはレティシアの詳しい事情について事前に知らせてあるんだ。キミが伯爵家を離れてもう三年になる。心配しているだろうし、強がりなキミ自身以外の者からも詳細を聞きたかっただろうからね」
あら? それって。
「もしや、メルウィック様が直接?」
「うん。カーン伯爵とは手紙のやり取りをする仲だよ」
「え、ええ……?」
いつの間に?
いつから、お父様と憧れの人が文通相手になっているんでしょうか?
お父様ったら、メルウィック様に変なことを話していないといいんですけど。
『キュイキュイ、キュー』
「あっ」
また魔法のツバメが一羽。黄金の欠片を持って帰ってきました。
意外とたくさん欠片になった黄金があるんですね?
「よしよし、いい調子。配って使った黄金って意外と散らばっているんだよねぇ」
「……鉱石類が加工された際にできる細かい欠片が不要とされるのはわかりますが、黄金がそんなに不要と断じられて捨てられますか? 黄金なのに」
私の認識では黄金のインゴットとしてラカン殿下に提出するところで止まっています。
あの塊がこんな欠片になりますかね?
……私、意外と自分の黄金が直接使われている場面って見たことがありませんでした。
「意外とね。加工がしやすい素材みたいだよ、金ってさ。柔らかいっていうか」
「それはそうらしいですね」
黄金は加工がしやすく、また錆びないため、価値が高い。
金貨にされるのが私の中では一般的な黄金の使い道です。
溶かす場合は欠片なんて出ないような気がしますが、実際の加工現場に行ったことはありません。
削って使用される場合もあるなら、こうした欠片も出てくるのでしょうか。
自分で作っておいてなんですが、私なら、もったいなくて削られた欠片も拾ってしまいそう。
この黄金も、一度は誰かを満たしてあげられたのかしら? そうだといいのだけれど。
「実は、いつも考えていたのです。貧民を救済するのはいいけれど、私の魔法をもっとカーン領の民の幸福につなげられないかと。伯爵家に留まったまま、この【黄金魔法】を伯爵領の産業に据えていれば、どうなっていたかと」
そうすれば、もっと早くに伯爵領は潤っていたのではないか、なんて。
「んー……。レティシアが今までラカン殿下のもと福祉活動をがんばってきたことは、きちんと伯爵領の人々にも伝わっていると思うよ。キミががんばっているから伯爵夫妻もこの領地の人たちもがんばろうと思えたのだろうし」
「あ、ありがとうございます」
福祉活動については、もちろん評価されたくてしてきたわけではありません。
ですが、それをきちんと褒められるというのは、なかなかにこそばゆく、嬉しいものですね。
「キミの今までの献身は何も無駄じゃなかった。救われた民がいて、伯爵領の人々も前を向いて生きられた。良い事が起きていたんだよ。それに」
「は、はい」
「黄金産業はおすすめできなかったね」
「え? そ、そうですか? いい案だと思いますが」
というか自分が【黄金魔法】を使えるとわかった貧乏伯爵令嬢なんて、そういう発想しか浮かびませんよね?
「金の産出手段がキミに限られてしまうところが、まず問題だね。領民を愛しているキミが、直接に領民の生活を預かる立場になる。それはもちろん普通の領主の務めだけど。キミの場合、結局は身を削って倒れるまで黄金を作り続けたと思うんだよね。ラカン殿下が望まなくてもさ。その自覚、あるだろう?」
「うっ……!」
はい、そうでした。
結局、倒れるまで魔法を使ったのは私自身です。
ラカン殿下は私に強制自体はしていないのですから。
家族とか領民、それに王族の立場を使った脅迫とかもされていません。
あくまで頼まれて私の意思で黄金を作っていました。
「王宮は『黄金の正式な管理』という仕事面があったからね。伯爵領でそのまま黄金産業を展開、となると今とは話が変わってくるし。レティシアがいなくなってしまえば、そのあと、やっぱりそれはまた閉山してしまうのと同じ形の負債にならないかい? 今後の継続性の問題というか」
「確かに……」
鉱山の閉山に伴い、長く苦労してきたのがカーン伯爵家です。
ここで私を中心に据えた黄金産業で一時的に領地が潤っても次の世代につながらない。
次世代に私と同じ苦労をさせてしまうだけですよね。
「……私の次世代の苦労になるだけ、ですね」
「そうだね。キミの子には苦労させたくないな。……んー。ワガママに育つより多少は? 子供には苦労させた方がいいと思う? レティシア」
「えっ⁉ えっと、そう、ですね?」
私の子供の話をこんなに近くにいるメルウィック様とするシチュエーション!
そんなの、勘違いしてしまうじゃないですか!?
生まれてくる子が銀髪で青いサファイアの瞳、いえ、エメラルドの瞳に銀髪も悪くない?
きゃー!
「レティシア? 大丈夫? 顔が赤くなっているよ」
「だだ、大丈夫です! はい! むしろ元気です!」
本当に。魔法のツバメが私に黄金の欠片を運んでくる度に気力が溢れてきました。
病は気から、とは本当のことですね。いえ、本当に体調は崩れていたんですけど。
「ああ、伯爵夫妻が出迎えてくれるようだよ」
「あっ。お父様、お母様……」
カーン家の屋敷の前では少ない使用人たちを連れたお父様とお母様が私を待ってくれていました。
ゆっくりと近寄る私。ドキドキと心臓が高鳴ります。
私がわかりますか? 黒髪になってしまった、私が。
もう家を離れて三年になります。身体も成長しました。
顔はどうでしょう? 大人びたでしょうか。
それ以上に少しやつれてしまって顔つきが変わっているかもしれません。
「──レティシア、お帰りなさい」
「おかえり、レティシア、よくがんばってきたわね」
「……! お父様、お母様!」
髪と瞳の色を失った私でしたが、ちゃんと両親はわかってくれました。
いえ、メルウィック様が知らせてくれていたのもありますが。
一つの不安が解消された瞬間です。私は……何も失っていなかったんですね。
白銀の髪に青いサファイアの瞳を持つ美形の男性。
『万能の魔法使い』とまで呼ばれた天才、王宮魔術師団・第二師団長のメルウィック・スワロウ様。
四つ歳上の侯爵家の次男様で……私の片思い中の相手です。
彼は、私がカーン伯爵領に帰るよう根回しし、手続きをしてくれた上で道中の護衛まで買って出てくれました。
私の所属は、王宮に上がったはじめの頃はふんわりとした扱いでしたが、しばらくして第二師団の所属になりました。
つまりメルウィック様は私の直属の上司という立場でもあります。
何気に私よりも、私の【黄金魔法】について詳しい方だったりしますね。
「何がだい? レティシア」
「その、第二師団長の貴方が私一人の護衛など」
「王宮勤めの伯爵令嬢に護衛をつけることは、そんなに変なことじゃないよ?」
「でもメルウィック様のような方、自らがなんて……」
「キミの存在が特別だからねぇ」
「えっ!?」
「ん?」
「あ、いえ!」
特別だなんてメルウィック様に言われますと困ります。
いえ、私の『魔法が』特別なのだというのはわかりますけどね!
……ふぅ。
私は一房だけ金髪に戻った前髪を指先で弄びました。
メルウィック様の魔法のツバメが各地に散った私の黄金の、その欠片を拾い集め、生命力として私に還元してくれる。
今の私は生命力を削り過ぎているから、どんどん体調が悪化したけれど、ある程度の生命力を取り戻しさえすれば、きちんと自力で元の体調へと戻れるそうです。
しかし、ひとまずは療養が必要。なにせ王宮で倒れるほどだったので。
王宮からの外出許可や女医の診察結果、各部署への通達などはメルウィック様が済ませてくれていました。
おかげさまで、すんなりと王宮を出発することができ、おまけに護衛はメルウィック様という至れり尽くせりのこの状況。メルウィック様には頭が上がりません。
「カーン伯爵領はね、最近では景気が上向きなんだよ」
「え? そうなのですか?」
「うん。伯爵令嬢であるキミが王宮勤めをして、その分の給金を伯爵に渡している。娘にがんばらせてしまっているんだから、と伯爵夫妻も精を出しているようだ。鉱山が枯れたあとで跡地付近を含む一帯を農地化していた事業もようやく形になってきたようだね。二代前……だから三代続けての閉山した土地の運営だ。時間はかかったけれど、ようやく軌道に乗ってきたんだろう。まだ苦労はするだろうけれど、これからのカーン伯爵領は真っ当な領地に変わっていくと思うよ。運営が健全な、伯爵家相当のね」
それは……嬉しい報せです。
祖父より前の代からのカーン伯爵家の苦労がようやく報われるのですね。
「それでね、もちろん伯爵家の苦労は労いたいのだけど」
「はい」
「カーン伯爵には少し商談があってさ」
「商談ですか? メルウィック様ご本人が?」
「うん、俺個人で伯爵に話をしないといけなくてね」
私は馬車に揺られながら首を傾げました。いったい父になんの御用でしょう?
とはいえ、私の護衛をしてくれているのは、その商談があるから『ついでに』ということなのですね。それはなんとも……まぁ、役得だと思っておきましょうか。
『キュイキュイ、キュー』
「あっ」
またツバメさんです。
本物そっくりに見えますが、メルウィック様の魔力で編まれて生まれた魔法のツバメ。
その証拠に嘴には黄金の欠片が咥えられていました。
「よしよし、おいで」
『キュイキュイ、キュー』
メルウィック様の指先に留まったツバメは可愛らしく鳴き声を上げます。
手乗りツバメ。ふふ、可愛らしいですよねぇ、小鳥さん。
メルウィック様がそうしていると、とても絵になるというか目の保養になると言いますか。
「またひとつ」
嘴の先の黄金は光の塊になり、フワフワと私の元に送られてきました。
この行為を私は王宮にいた時から今に至るまで、すでに十回は受けています。
おかげで一本だけだった黄金の髪が一房分へ。
さらに今また生命力が私に還元されました。
「ふぅ……。心なしか身体が軽くなってきた気がします」
「それは何より。レティシアの気持ちが上を向いてきたんだろうね」
確かに。王宮でクヨクヨと悩んでいた時よりも今はずっと気分が軽いです。
肩に重くのしかかっていた何かがなくなったみたい。
「全部、メルウィック様のおかげです」
私は顔に熱が上がるのを感じながら、誤魔化すように視線を逸らしてから……ふい、と。
彼の顔を見上げました。
そうするとメルウィック様は私をまっすぐに見つめていて優しく微笑んでくださったんです。
(キャー……!)
なんと言いますか。馬車の中、私たちって今、二人きりなんですよね。
もちろん御者席には御者さんがいらっしゃるんですけど。
護衛のためとはわかってはいるんですが、憧れの人とこうして二人きりの空間。
なんだか馬車の進みが殊更にゆっくりに感じますね……!
「……パシヴェル王国もいろんな問題があるよねぇ」
「は、はい! はい?」
なんのお話でしょう?
「貧民救済事業だけじゃないってことさ。なんで王都に貧民が溢れてしまうかというと各領地への手が回り切ってないからなんだよね。閉山した伯爵家に対して王家の支援が十二分だったかというと、そうでもなかったしさ」
「それは……はい。けれど、流石に二代前から今に至るまで、ずっと支援していただくわけにも」
「まぁ、それはそうだけどねー」
なんの気もない、自然体でお喋りする時間をすごしながら馬車は進みます。
ほどなくして私たちを乗せた馬車はカーン伯爵領へと帰ってきました。
「……今の私の姿を見て、お父様とお母様はレティシアだとわかってくれるかしら?」
金色の髪とエメラルドの瞳のままだった私しか知らない両親。
少しだけ金髪は戻ってきたけれど、それ以外は、まだ。
「ああ、実はカーン伯爵夫妻にはレティシアの詳しい事情について事前に知らせてあるんだ。キミが伯爵家を離れてもう三年になる。心配しているだろうし、強がりなキミ自身以外の者からも詳細を聞きたかっただろうからね」
あら? それって。
「もしや、メルウィック様が直接?」
「うん。カーン伯爵とは手紙のやり取りをする仲だよ」
「え、ええ……?」
いつの間に?
いつから、お父様と憧れの人が文通相手になっているんでしょうか?
お父様ったら、メルウィック様に変なことを話していないといいんですけど。
『キュイキュイ、キュー』
「あっ」
また魔法のツバメが一羽。黄金の欠片を持って帰ってきました。
意外とたくさん欠片になった黄金があるんですね?
「よしよし、いい調子。配って使った黄金って意外と散らばっているんだよねぇ」
「……鉱石類が加工された際にできる細かい欠片が不要とされるのはわかりますが、黄金がそんなに不要と断じられて捨てられますか? 黄金なのに」
私の認識では黄金のインゴットとしてラカン殿下に提出するところで止まっています。
あの塊がこんな欠片になりますかね?
……私、意外と自分の黄金が直接使われている場面って見たことがありませんでした。
「意外とね。加工がしやすい素材みたいだよ、金ってさ。柔らかいっていうか」
「それはそうらしいですね」
黄金は加工がしやすく、また錆びないため、価値が高い。
金貨にされるのが私の中では一般的な黄金の使い道です。
溶かす場合は欠片なんて出ないような気がしますが、実際の加工現場に行ったことはありません。
削って使用される場合もあるなら、こうした欠片も出てくるのでしょうか。
自分で作っておいてなんですが、私なら、もったいなくて削られた欠片も拾ってしまいそう。
この黄金も、一度は誰かを満たしてあげられたのかしら? そうだといいのだけれど。
「実は、いつも考えていたのです。貧民を救済するのはいいけれど、私の魔法をもっとカーン領の民の幸福につなげられないかと。伯爵家に留まったまま、この【黄金魔法】を伯爵領の産業に据えていれば、どうなっていたかと」
そうすれば、もっと早くに伯爵領は潤っていたのではないか、なんて。
「んー……。レティシアが今までラカン殿下のもと福祉活動をがんばってきたことは、きちんと伯爵領の人々にも伝わっていると思うよ。キミががんばっているから伯爵夫妻もこの領地の人たちもがんばろうと思えたのだろうし」
「あ、ありがとうございます」
福祉活動については、もちろん評価されたくてしてきたわけではありません。
ですが、それをきちんと褒められるというのは、なかなかにこそばゆく、嬉しいものですね。
「キミの今までの献身は何も無駄じゃなかった。救われた民がいて、伯爵領の人々も前を向いて生きられた。良い事が起きていたんだよ。それに」
「は、はい」
「黄金産業はおすすめできなかったね」
「え? そ、そうですか? いい案だと思いますが」
というか自分が【黄金魔法】を使えるとわかった貧乏伯爵令嬢なんて、そういう発想しか浮かびませんよね?
「金の産出手段がキミに限られてしまうところが、まず問題だね。領民を愛しているキミが、直接に領民の生活を預かる立場になる。それはもちろん普通の領主の務めだけど。キミの場合、結局は身を削って倒れるまで黄金を作り続けたと思うんだよね。ラカン殿下が望まなくてもさ。その自覚、あるだろう?」
「うっ……!」
はい、そうでした。
結局、倒れるまで魔法を使ったのは私自身です。
ラカン殿下は私に強制自体はしていないのですから。
家族とか領民、それに王族の立場を使った脅迫とかもされていません。
あくまで頼まれて私の意思で黄金を作っていました。
「王宮は『黄金の正式な管理』という仕事面があったからね。伯爵領でそのまま黄金産業を展開、となると今とは話が変わってくるし。レティシアがいなくなってしまえば、そのあと、やっぱりそれはまた閉山してしまうのと同じ形の負債にならないかい? 今後の継続性の問題というか」
「確かに……」
鉱山の閉山に伴い、長く苦労してきたのがカーン伯爵家です。
ここで私を中心に据えた黄金産業で一時的に領地が潤っても次の世代につながらない。
次世代に私と同じ苦労をさせてしまうだけですよね。
「……私の次世代の苦労になるだけ、ですね」
「そうだね。キミの子には苦労させたくないな。……んー。ワガママに育つより多少は? 子供には苦労させた方がいいと思う? レティシア」
「えっ⁉ えっと、そう、ですね?」
私の子供の話をこんなに近くにいるメルウィック様とするシチュエーション!
そんなの、勘違いしてしまうじゃないですか!?
生まれてくる子が銀髪で青いサファイアの瞳、いえ、エメラルドの瞳に銀髪も悪くない?
きゃー!
「レティシア? 大丈夫? 顔が赤くなっているよ」
「だだ、大丈夫です! はい! むしろ元気です!」
本当に。魔法のツバメが私に黄金の欠片を運んでくる度に気力が溢れてきました。
病は気から、とは本当のことですね。いえ、本当に体調は崩れていたんですけど。
「ああ、伯爵夫妻が出迎えてくれるようだよ」
「あっ。お父様、お母様……」
カーン家の屋敷の前では少ない使用人たちを連れたお父様とお母様が私を待ってくれていました。
ゆっくりと近寄る私。ドキドキと心臓が高鳴ります。
私がわかりますか? 黒髪になってしまった、私が。
もう家を離れて三年になります。身体も成長しました。
顔はどうでしょう? 大人びたでしょうか。
それ以上に少しやつれてしまって顔つきが変わっているかもしれません。
「──レティシア、お帰りなさい」
「おかえり、レティシア、よくがんばってきたわね」
「……! お父様、お母様!」
髪と瞳の色を失った私でしたが、ちゃんと両親はわかってくれました。
いえ、メルウィック様が知らせてくれていたのもありますが。
一つの不安が解消された瞬間です。私は……何も失っていなかったんですね。