白い結婚で捨てられた王妃は、「あなたのために王になります」と言った義弟の手を取る
 自分でも驚くほど感情がこもらない声だった。まだ何かをわめいているが、セレスティーヌの心には何も響かない。
 クラウスの姿が大広間から消えた後、次にレオンハルトはまだ玉座の隣で座っているカーラに視線を向けた。

「わ、私は何もしてないわよね。そ、そうよ。レオン。確かあなたには妃がいなかったでしょう。私がなってあげるわ」

 あからさまに誘惑しようとしているが、レオンハルトは冷たいまなざしを向けただけだった。

「あなたのような、頭の軽い妃は不要です。そもそも愛称どころか名前で呼ぶことすら許した覚えはない。兄上と仲良く幽閉されてください」

 とりつく島もないというのはこのことを言うのだろう。
 頭が軽いと言われたカーラは顔を真っ赤にして口をぱくぱくさせている。
 レオンハルトが無言で片手を上げると、心得たとばかりに騎士たちがカーラを捕えた。

「ちょ、ちょっと何するのよ! 私はこの国の王妃なのよ」

 クラウスと同様見苦しくぎゃあぎゃあ文句を言っていたが、もちろん温情がかけられるわけもない。
 ここまで国の財政が傾いたのは、カーラの浪費も大きな原因だ。
 王都を廃れさせた元凶――クラウスとカーラの姿が完全に大広間から消える。
 これから王宮の離宮に二人で幽閉されることになる。最低限の衣食住で暮らす日々になるだろう。

(二人がどこまで耐えられるのかしらね。もっとも、わたくしにはもう関係のない話だけれど)

 セレスティーヌは二人が消えていった扉を見つめ――再び視線を玉座へと戻した。
 玉座の前に立ったレオンハルトと視線が合う。
 レオンハルトは、大広間をぐるりと見回して宣言した。


「本日から、私、レオンハルト・アウグスト・ヴァルディスがこのヴァルディス王国の王になることを宣言する!」


 大広間が沸く。玉座に座っていなくとも、王冠をかぶっていなくとも、レオンハルトの姿は王だった。

(レオン殿下。ほんと、立派になったわね……)

 セレスティーヌは貴族たちの支持を得るレオンハルトに胸をいっぱいにする。
 おそらくこのあとレオンハルトはリンデンへの遷都を進めるだろう。行政機能の大半はすでにリンデンに移っている。

(……もう、私がやれることは十分にやったわ)

 レオンハルトが王になれば、もうこの国の民が苦しむこともないだろう。

(もう、アルヴェリアに戻っても大丈夫)

 父にはクラウスが王位を退いたこと、そして弟のレオンハルトが王になったことを告げる。そして、条約を再び結ぶよう進言しよう。レオンハルトは信用のできる王だ、と。
 会場の注目はレオンハルトが一心に集めている。少しずつ離れて、会場を去ろう。そう思っていたのに。

「義姉上。どこへ行かれるつもりですか?」

 そっときびすを返そうとした瞬間、レオンハルトから声をかけられる。慌てたように彼はセレスティーヌの方に駆け寄ってきた。
 セレスティーヌは困ったように微笑む。

「わたくしは、もう――」

 この国には不要な人間だもの。そう続けようとした瞬間、レオンハルトがセレスティーヌの元に跪いた。
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