白い結婚で捨てられた王妃は、「あなたのために王になります」と言った義弟の手を取る
『義姉上は兄上に対してもう少し怒っていいと思いますよ』

 結婚当初から夫に放置されていたセレスティーヌの元に、唯一通ってきてくれたのがレオンハルトだった。
 今思えば、レオンハルトも両親を亡くしてさみしかったのだと思う。精いっぱい大人ぶっていたようだけれど。
 故郷を離れたセレスティーヌにとって、彼の存在がどれだけ支えになってきただろう。
 レオンハルトは、いつもクラウスがセレスティーヌを放置していることに腹を立てていた。そのくせ仕事ばかりは押しつけてくる。

『いいのよ。もう諦めているから。私は王族として役目を果たす。それだけ』

 セレスティーヌの微笑みには諦念が浮かんでいたのだろう。

『そんな……。僕だったら、僕が兄上だったら、絶対放っておくなんてことしないのに』

 そう言ってレオンハルトは拗ねたように唇を尖らせる。
 まだ幼さの残る十代前半。その仕草が可愛らしくて、セレスティーヌは微笑んだ。

『ありがとう。レオン』



 
 忘れかけていた昔のやりとりが脳裏によみがえる。
 あの頃から、ずっとレオンハルトはセレスティーヌのことを見ていてくれたのだ。
 成長し立派になったレオンハルトの姿が、まだあどけない彼の顔と重なる。
 けれど、向けられる青い瞳はあの頃とあまり変わっていない。

(ずっと、レオン殿下だけがわたくしのことを見ていてくれた――)

 そうだ。レオンハルトが成人を迎えるまえから公務を手伝っていたのも、セレスティーヌの負担を軽くするため。
 セレスティーヌが側妃への降格を宣言されたときも、真っ先にレオンハルトが様子を見に来てくれた。手を差し伸べてくれた。
 ずっとずっと側で支えてきてくれたのだ。
 彼を支えるという未来も、悪くないのかもしれない。
 何より、セレスティーヌことをこんなにまっすぐな目で見てくれるのは、後にも先にも彼だけだろう。

(まだ恋じゃないかもしれないけれど)

 でも、今この手を取らなかったら、後悔する日がきっと来るような気がした。
 セレスティーヌはレオンハルトの真摯なまなざしを見返すと、ゆっくりを口を開いた。

「――わたくしでよければ」

 レオンハルトがぱっと顔を輝かせる。
 立ち上がるとぎゅっとセレスティーヌを抱きしめた。

「セレスティーヌ。絶対に幸せにします!」

 心底嬉しそうな声が降ってくる。
 セレスティーヌはたくましくなったレオンハルトの胸に顔をうずめる形になってしまう。
 ここは王宮の大広間だ。貴族たちがみんな見ている。
 かあっと顔を熱くしたセレスティーヌが離れようとするが、レオンハルトの力は強く離してくれない。

「レオン殿下、ちょ、ちょっと」
「昔みたいにレオンって呼んでください」

 レオンハルトは甘ったるい表情でセレスティーヌを見つめてくる。

「大丈夫。将来の国王夫妻の幸せな様子はみんなが喜びますよ」

 ええ、と思いつつも、確かに周囲から聞こえるのは祝福の声ばかり。

「レオン……」

 もう少しだけならこのままでもいいのかもしれない。
 セレスティーヌはもう少しだけレオンハルトに身を委ねることにした。



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