白い結婚で捨てられた王妃は、「あなたのために王になります」と言った義弟の手を取る
* * *
一年後。ヴァルディス王国は、リンデンに遷都した。
レオンハルトが前々から準備を進めていたとはいえ、なかなか骨が折れる作業だった。
もちろんセレスティーヌも、各国への連絡など手伝えることは手伝った。
それなりにスムーズに進んだのは、クラウスの悪政で既に旧王都は機能を失いつつあったからだろう。
リンデンの城。代々の領主に受け継がれていたという白亜の城が、今ではヴァルディスの王宮だ。もっとも国政機能をそのまま移転させるには狭かったので、市民の手続きなどを行う部署を中心に城の外に建物を借りてそこで執務をしている。
アルヴェリアとの条約を結び直したこともあり、新王レオンハルトの評判は上々だ。まあ、前がアレだったというのもあるだろう。そんな前王クラウスはカーラとともに旧王都にある離宮に幽閉されている。毎日ケンカをする怒鳴り声が聞こえてくるという話だ。その話を聞いたとき「そのうち刃傷沙汰になりそうですね」とレオンハルトは感想を述べたけれど、シャレにならないのでやめてほしい。
「セレスティーヌ!」
城の一室。セレスティーヌを呼ぶ声と共に扉が開く。現れたのはレオンハルトだった。
「あ。陛下」
普段着のドレスをきたセレスティーヌが振り向く。周囲には侍女と帰り支度をするお針子たちの姿があった。
「間に合わなかったか……」
その様子にがくりとレオンハルトが肩を落とす。
「いいじゃないですか。本番のときには見られるんですから」
「でも、いち早く僕も見たかったんですよ。あなたのウェディングドレス姿」
そう。今日はセレスティーヌの花嫁衣装の試着日だった。細かな調整は必要なものの、サイズが合わなくなっていた、などの事態になっていなくて心底良かったとセレスティーヌは思う。
できればセレスティーヌのドレス姿を見たい、と言っていたレオンハルトだったが、さすがに間に合わなかったようだ。
「結婚式でいくらでも見られるわよ」
来月、このリンデンの城で二人の結婚式が行われる予定だ。前王クラウスの妻だった自分とレオンハルトの結婚が認められるのか不安だったが、公開求婚の効果もあってか、意外と反対の声は少なかった。
ちなみに結婚式と同時に、多忙で先延ばしになっていた戴冠式も行う予定でいる。
本当にこの一年は忙しかった。でももう少しで落ち着くだろう。
「でも、今日見たかったんです」
レオンハルトが拗ねたように唇を尖らせる。この表情にセレスティーヌが弱いことを知っていてわざとやっているんじゃないだろうか。
後ろからきゅっと甘えるようにレオンハルトが抱きついてくる。
「セレスティーヌ。傷心の僕を慰めてください」
そんな彼が非常に可愛らしいと思う。けれど。
「こんな人前で駄目よ」
「駄目じゃないですよ。だって、ほら、もう、誰もいません」
レオンハルトがセレスティーヌの耳元で囁く。優秀な侍女たちはお針子と共に部屋から姿を消していた。
「しょうがないわね。レオン」
そんな彼が可愛らしくも愛おしい。
もう断る理由はなくなってしまったセレスティーヌは、レオンハルトの頬にそっと触れた。
一年前、彼の手を取ったときは、まだ完全な恋ではなかった。ずっと弟としてみていたのだ。当たり前だろう。
でも、彼の手をとって、正式に婚約をして、共に執務をこなすようになって。
気持ちは確実に変わっていった。
――次の結婚は幸せなものになるだろう。それだけは断言できる。
一年後。ヴァルディス王国は、リンデンに遷都した。
レオンハルトが前々から準備を進めていたとはいえ、なかなか骨が折れる作業だった。
もちろんセレスティーヌも、各国への連絡など手伝えることは手伝った。
それなりにスムーズに進んだのは、クラウスの悪政で既に旧王都は機能を失いつつあったからだろう。
リンデンの城。代々の領主に受け継がれていたという白亜の城が、今ではヴァルディスの王宮だ。もっとも国政機能をそのまま移転させるには狭かったので、市民の手続きなどを行う部署を中心に城の外に建物を借りてそこで執務をしている。
アルヴェリアとの条約を結び直したこともあり、新王レオンハルトの評判は上々だ。まあ、前がアレだったというのもあるだろう。そんな前王クラウスはカーラとともに旧王都にある離宮に幽閉されている。毎日ケンカをする怒鳴り声が聞こえてくるという話だ。その話を聞いたとき「そのうち刃傷沙汰になりそうですね」とレオンハルトは感想を述べたけれど、シャレにならないのでやめてほしい。
「セレスティーヌ!」
城の一室。セレスティーヌを呼ぶ声と共に扉が開く。現れたのはレオンハルトだった。
「あ。陛下」
普段着のドレスをきたセレスティーヌが振り向く。周囲には侍女と帰り支度をするお針子たちの姿があった。
「間に合わなかったか……」
その様子にがくりとレオンハルトが肩を落とす。
「いいじゃないですか。本番のときには見られるんですから」
「でも、いち早く僕も見たかったんですよ。あなたのウェディングドレス姿」
そう。今日はセレスティーヌの花嫁衣装の試着日だった。細かな調整は必要なものの、サイズが合わなくなっていた、などの事態になっていなくて心底良かったとセレスティーヌは思う。
できればセレスティーヌのドレス姿を見たい、と言っていたレオンハルトだったが、さすがに間に合わなかったようだ。
「結婚式でいくらでも見られるわよ」
来月、このリンデンの城で二人の結婚式が行われる予定だ。前王クラウスの妻だった自分とレオンハルトの結婚が認められるのか不安だったが、公開求婚の効果もあってか、意外と反対の声は少なかった。
ちなみに結婚式と同時に、多忙で先延ばしになっていた戴冠式も行う予定でいる。
本当にこの一年は忙しかった。でももう少しで落ち着くだろう。
「でも、今日見たかったんです」
レオンハルトが拗ねたように唇を尖らせる。この表情にセレスティーヌが弱いことを知っていてわざとやっているんじゃないだろうか。
後ろからきゅっと甘えるようにレオンハルトが抱きついてくる。
「セレスティーヌ。傷心の僕を慰めてください」
そんな彼が非常に可愛らしいと思う。けれど。
「こんな人前で駄目よ」
「駄目じゃないですよ。だって、ほら、もう、誰もいません」
レオンハルトがセレスティーヌの耳元で囁く。優秀な侍女たちはお針子と共に部屋から姿を消していた。
「しょうがないわね。レオン」
そんな彼が可愛らしくも愛おしい。
もう断る理由はなくなってしまったセレスティーヌは、レオンハルトの頬にそっと触れた。
一年前、彼の手を取ったときは、まだ完全な恋ではなかった。ずっと弟としてみていたのだ。当たり前だろう。
でも、彼の手をとって、正式に婚約をして、共に執務をこなすようになって。
気持ちは確実に変わっていった。
――次の結婚は幸せなものになるだろう。それだけは断言できる。
