白い結婚で捨てられた王妃は、「あなたのために王になります」と言った義弟の手を取る
 セレスティーヌとレオンハルトが姿を現すなり、大広間中の人間の注目が二人の立つ扉の前へと集まった。
 扉からまっすぐ玉座まで敷かれた赤絨毯。その両脇にいる貴族たち。貴族たちが遅れて登場した二人にざわめく。
 どうやら、すでに貴族たちは集まっており、式典も開始しているようだ。
 玉座には偉そうにふんぞり返ったクラウス、そしてその隣には濃い桃色のドレスを着たカーラが座っている。キラキラと輝くドレスは美しいが趣味がいいとはあまり言えない。

「セレスティーヌ! レオンハルト! 堂々と遅れてくるとはどういう了見だ」

 クラウスは二人の姿を見るなりわざわざ立ち上がってそう糾弾した。貴族たちのざわめきが大きくなる。

(こちらは時間通りに来たわけだけれど……)

 なるほど。わざと遅い時間を知らせておいて、こちらが失礼をしたという形に持っていくつもりなのか。それで何か要求を呑ませるつもりなのだろう。
 レオンハルトのエスコートで、セレスティーヌは広間の中央まで進む。

「失礼いたしました。陛下。何らかの手違いがあったようです」

 セレスティーヌは言いたいことを押し殺して、殊勝に謝罪をする。貴族たちのざわめきがやんだ。
 はん、とクラウスが鼻で笑った。

「この建国記念式典に遅れてくるとは言語道断。しかし、アルヴェリアとの仲を取り持つのであれば、お前の失態を許してやろう」

 最初からそのつもりだったのだろう。が、考えることが浅はかすぎる。
 セレスティーヌはすっと表情を消して玉座に座るクラウスを眺めた。
 隣のレオンハルトを盗み見れば、彼も冷め切った表情でクラウスを見つめている。

(いい機会だわ)

 セレスティーヌは大きく息を吸い込むと、大広間中によく通る声で宣言した。

「お断りいたします」

 しんと会場がしずまる。少し間を置いて、クラウスが間抜けな声を出した。

「――は?」
「だって、わたくしにはアルヴェリアとの仲を取り持つメリットがありませんもの」

 セレスティーヌは今までクラウスに刃向かったことがなかった。
 そのためだろう。セレスティーヌの反抗的な態度にクラウスが驚いている。

(今までずっと我慢してきたわ。でも、それが間違いだった。もっと早く気づくべきだったのよ)

「な、何を言っているんだ! セレスティーヌ」

(だってこの人は、直接言ってもわからない人間なのだもの)

「だってそうでしょう。アルヴェリアとの条約が破棄されたのは陛下の失態。何故、わたくしが取りなさなければならないのですか?」
「お前は、私の妃だろうが! 国のために身を粉にするのは当然だろう!」
「いいえ。もう妃ではありませんわ」

 セレスティーヌはゆっくりと首を振った。
 隣ではレオンハルトが楽しそうな顔で見守っている。

「何を言っているんだ。側妃だって立派な妃だろうが」
「そうですわよ。正妃から外されたからと言って、いじけるのはやめたらいかがです?」

 今まで黙っていたカーラがここぞとばかりに口を挟む。その口調はどこか誇らしげだ。セレスティーヌを押しのけて正妃になった自負があるからだろう。
 はあ、とセレスティーヌはこれ見よがしにため息をついた。

「陛下。ご存じないのですか? わたくしと陛下はもう既に夫婦ではありません。離縁が成立しているのです」

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