白い結婚で捨てられた王妃は、「あなたのために王になります」と言った義弟の手を取る
 セレスティーヌのこの宣言にはさすがに貴族たちも驚いたらしい。が、もっと驚いていたのは当事者であるはずのクラウスだった。

「何を――」
「結婚の際に、契約を交わしたではないですか。正妃から降りるようなことがあった場合、わたくしが望めば離縁ができる、と」

 思えば父親は何かを感じ取っていたのかもしれない。わざわざそんな項目を盛り込んだのだから。

「あなたに側妃への降格を宣言された時点で、わたくしは離縁を望みました。書類だって提出して、陛下のサインもありますよ。つまり、離縁は成立しております。もう既にわたくしたちは赤の他人です。わたくしはただ、アルヴェリアの大使としてこの国に滞在しているだけ」
「馬鹿な。そんな書類は……見ていない!! つまり無効だ!」

 苦し紛れにそんなことを言い出すクラウスに対し、セレスティーヌははあとため息をつく。
 レオンハルトをちらりと見ると、彼は小さくうなずいて手を叩いた。一人の文官が書類を持ってやってくる。
 セレスティーヌは書類を受け取ると、視線を落として、わざとらしく声をあげた。

「おかしいですわね。離縁届にはしっかり陛下のサインが入っていますが」

 セレスティーヌははぴらりと書類をクラウスの方に向けた。

「セレスティーヌ!」
「陛下がこの書類にサインをしたとき、文官は目を通さなくてもいいのか、と聞いたそうですわ。あなたは読まないままサインをしたそうですが」
「……」

 淡々としたセレスティーヌの指摘に、クラウスは顔を真っ赤にしている。心当たりがあるのだろう。
 まあいい。セレスティーヌはクラウスの方を見て言った。

「その上で申し上げます。アルヴェリアはあなたが玉座に座っている限り、条約を再び結ぶことはありません。これはアルヴェリアからの正式な文書として預かっております」
「なっ」

 言葉を失ったクラウスだが、すぐに思い直したらしい。

「この恩知らずが! お前をもらってやったというのに!」

 もらってやった。この男はいつもそればかりを言う。もううんざりだ。

「陛下が勘違いしているようなので訂正しておきますわね。むしろ、わたくしが頼まれて陛下と結婚したのです。周囲からは止められたんですよ。もっといい相手がいると」

 まあ、その相手というのは、小国の王という立場の意味でクラウス自身の評価ではないのだが、まあそれをわざわざ言ってやる必要はないだろう。

「本当にあなたは容姿しかみていないのですね」

 下に見ていたセレスティーヌから、逆にこちらが結婚してやった立場だと宣言されて、クラウスは憤慨する。

「セレスティーヌ。お前、何を偉そうに」
「わかってなかったのは兄上ですよ。大国アルヴェリアの末の王女にもらい手がないわけがないでしょう。わざわざこんな小国に来てくださったことに感謝しなければならなかったんですよ。それを兄上ときたら、髪と目の色だけで義姉上を蔑んだ。考え得る限り最悪の立ち回りです。そして、それが今の王都の原因になっている」

 割り込んだのはレオンハルトだった。真面目な顔できっぱりと言い切る。
 大広間中の注目がレオンハルトに集まる中、彼はびしりと玉座のクラウスを指さすと大きな声で宣言した。

「というわけで兄上。国王の座から降りてください。ヴァルディスにはアルヴェリアの後ろ盾が必要です。あなたが玉座にしがみついている限り、この国に未来はない」
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