消して、奪って、きみだけを
「あ……ごめん。ちょっとぼーっとしちゃって」
「準備、張り切りすぎて疲れてんじゃね? 何ならいまからちょっとサボるか」
扉からずれて苦笑したわたしにそう言った涼は、抱えていたダンボールを隅に下ろす。
率先して足りなくなった分の補充をしてくれたのだろう。
「サボるって?」
「抜け出して適当に遊びにいく。ほかのクラスの偵察しにいくんでもいいな」
遊びにいくのはさすがに気が引けるけれど、ほかのクラスを覗きにいく程度ならちょうどいい息抜きになりそうだった。
乗ろうとしたとき、遮るように涼のスマホが震える。
「……あー、悪ぃ。サボりはまたにするか」
きっと美怜ちゃんから何らかの用向きで呼び出されたのだろう。
残念だけれど、それなら仕方がない。
眉を下げて苦く笑う彼に頷くものの、つい落としてしまった視線の先に紅茶が差し出される。
驚いて涼を見上げると、彼はふっと口の端を持ち上げた。
「ダンボール取りにいったついでに自販機寄ってきたんだ。これ飲んでる間は休んでていいぞ。みんなの代わりに俺が許可する」
「“サボるな”って怒られたら涼のせいにしていいんだ?」
「ああ、今回だけな」
思わず笑ってしまいながら「ありがとう」と紅茶を受け取ると、涼はきびすを返して教室を出ていく。
その不器用な優しさに救われて心が晴れた。
────翌日も、その翌日も、叶人くんのそばには日和がいた。
文化祭準備の時間だけじゃなく、朝も休み時間も声をかけてはふたりで話している。
そんな急接近に困惑してしまう傍ら、わたしは何となくそわそわと落ち着かなかった。
このままどこまで距離が縮んでいくのか、それが気になって仕方ないのだ。
今日も密かにそんな不安を抱えながら教室に入ると、後方にいた日和がわたしに笑いかけてくれる。
「あ、羽衣。おはよ!」
「おはよう……」
日和が急によそよそしくなったとか、わたしに対するそんな変化はない。
だからこそどうすることもできなくて、ただ見ているしかなかった。
そして────。
「おはよう」
やっぱり、今日も日和の隣には叶人くんがいた。
いつも通りに優しく微笑んでくれるけれど、ふたりはすぐにまた話し始めてしまい、わたしの入る余地はなくなっていた。
「…………」
ちく、と針を刺された心からもやもやとくすんだ感情があふれ出していく。
どうしてだろう。
どうして急にふたりはこんなに親密になったんだろう。
(友だちとして、なのかな……)
それとも、いつか現れると覚悟していた“素敵な人”は日和だったということなのだろうか。