消して、奪って、きみだけを
日和は愛嬌があってかわいらしいし、いつも元気に笑っているし、一緒にいて退屈することがない。
以前はわたしに好きだと言ってくれた叶人くんだけれど、考えてみれば、そんな彼女の存在がわたしを超えないはずがなかった。
わたしなんかのどこがいいんだろう、とずっと疑問に思っていたくらいなのだから。
思わず叶人くんを見つめるけれど、目線は交わらない。
日和に向ける笑顔が以前と変わったようにさえ思えて、耐えられずに逸らすと自分の席へ逃げた。
放課後、今日も文化祭準備のために残っているわたしは水道でパレットを洗っていた。
水に溶けたさまざまな色が混ざって、渦を巻くように流れていく。
まるでいまのわたしの心の模様だった。
そのとき、ふと隣に現れた誰かが同じように水道を捻ってパレットを流す。
日和だった。
「日和……」
なぜか心臓がどきりと重たく沈む。
聞きたいことも話したいことも不安と同じくらい抱えていたはずなのに、言葉が出てこない。
「……あのね、羽衣に確かめたいことがあって」
そのうち、日和が先に口を開いた。
きゅ、と蛇口を捻ると身体ごとわたしに向き直る。
「羽衣は叶人くんのこと好きなの?」
どき、とまたしても心臓が跳ねた。
自分でも戸惑うくらい動揺してしまって、どうしようもないまま視線をさまよわせる。
はっきりと自覚があったわけじゃなかった。
一緒にいたい、とは思っていたけれどそれが恋心なのかどうか確信も持てなかった。
だけど、持て余しているこの不安が本音だろう。
心より正直な鼓動がわたしに答えを示していた。
(わたしは、叶人くんのこと……)
ようやく自分の気持ちに気がついたけれど、言葉にする前に日和が笑う。
「……って、ちがうよね。もしそうならとっくに告白の返事してるはずだもん」
熱を帯びた首筋を冷たい手で掴まれたような心地がした。
喉元まで込み上げていたはずの言葉を反射的に飲み込んでしまう。
返事はすぐじゃなくていい、と言ってくれた叶人くんの優しさに甘えて、過去を思い出せないことを言い訳にして、ずっと先延ばしにしていた。
わたしを困らせないためにそう言ってくれていた彼は、一度たりとも急かすことはしなかったけれど、実際はきっとずっと待っていたはず。
────羽衣は、篠崎くんのことどう思ってるの? ずっと気になってた。
────篠崎くんが羨ましいよ。
いまのわたしみたいな不安や焦りを抱えていたはずなのに、わたしを信じて、わたしの気持ちばかりを優先してくれていた。
(それなのに、わたしは……)
顧みるどころか、うぬぼれていたんじゃないだろうか。
叶人くんの気持ちが変わることはない、と勝手に確信して自分のことばかり考えていた。
彼はそんなわたしに嫌気がさして、我慢の限界を迎えたのかもしれない。
それなら、今回のことはばちが当たったんだ。
「だから、親友の羽衣には隠さず伝えておかなきゃと思って」
「何、を……?」
「あたし、叶人くんのこと好きになっちゃった」