消して、奪って、きみだけを
日和の言葉に足元がぐらりと傾いた。
最近の様子を見ていれば、まるきり予感がなかったわけじゃないのに、いざはっきりと告げられると揺らいでしまう。
「協力してくれる?」
顔を上げられなくなって目を落とすものの、日和が首を傾げたのが視界の端に映った。
さっきまでの熱は引き、心臓ごと冷たくなっていく。
「う、ん……」
それでも、鉛みたいに重たくなった首をどうにか縦に振る。
もういまさらわたしの気持ちを認めることも、それを表に出すことも手遅れとしか思えなかった。
わたしも日和の親友なら、選択肢はひとつしかない。
「ありがとう、羽衣! あたし、頑張るから」
うれしそうに笑顔を弾けさせた日和は軽やかな足取りで教室へ戻っていく。
水道に目を戻すと、水に浸されたわたしのパレットは濁っていた。
複雑な心境で教室へ戻ったわたしのもとへ、叶人くんが歩み寄ってくる。
変わらず柔らかい眼差しで笑いかけてくれた。
「なかなか戻ってこないから心配したよ。何かあった?」
「あ、ううん……! 何もないよ」
彼の目も見られなくなって、うつむきがちに慌てて首を横に振る。
それでも、いままでみたいにわたしに話しかけてくれたことがうれしいとこの期に及んで思ってしまった。
日和との仲を応援すると決めた以上、そんなふうに感じることも裏切りなのだろうか。
わたしが勝手に期待するくらいなら許されるだろうか。
「叶人くん!」
そのとき、笑顔で駆け寄ってきた日和が彼の袖を引いた。
「材料が足りなくなっちゃったって。追加の買い出し行かない?」
「ああ、うん」
こともなげに彼が頷くと、日和は袖ではなく腕を掴んで引っ張る。
それを見た瞬間、とっさに踏み出していた。
「……っ」
待って────なんて言葉にならなくて、日和みたいに袖を掴むこともできなくて、結局ただふたりの背を見つめたまま立ち尽くしてしまう。
「じゃあ、ちょっと行ってくるね」
一度振り向いた叶人くんはそう言い残し、日和とともに教室を出ていった。
わたしはその場から動けなくなり、きつく口を結んでうつむく。
(まだ……)
心のどこかで期待してしまった。
叶人くんなら日和じゃなくて、わたしとここに残ることを選んでくれるんじゃないか、と。
勘違いも甚だしい。
どこまで諦めが悪いんだろう。
(もう何もかも“いまさら”なのに)
変わらないものなんて、ない。
叶人くんの心も、日和との友情も、涼との関係も────。
わたしがないがしろにしてしまったから、大事にできなかったから、こうやって少しずつ失っていくことになるんだ。