消して、奪って、きみだけを
     ◇



 迎えた文化祭当日、登校したわたしは女子の更衣室である隣のクラスへ向かった。
 わたしたちの教室の方は、同様にいまだけ男子の更衣室になっている。

 教室に足を踏み入れたとき、異様な空気に包まれていることに気がついた。

 教卓を囲むように人だかりができていて、何かを囁き合うようなざわめきが広がっていく。

(何だろう?)

 その隙間から教卓を目にして思わず息をのんだ。
 そこには、ずたずたに破れた接客用の衣装が横たわっている。

 ハンガーには“桜木”と書かれたタグが()げられていて、どくん、と沈み込んだ心臓が嫌な収縮を繰り返す。

「何これ……」

「ひどい」

 黒色のワンピースも白いエプロンもはさみか何かで乱暴に切り裂かれていて見る影もない。

 ポケットに縫いつけられた淡いピンク色のリボンは、日和が選んでくれたものだ。
 それすらちぎれて先がほつれてしまっている。

 動揺を禁じ得ず、呆然と立ち尽くしてしまった。

「どうして、こんな……」

「おはよ、羽衣。……って、何それ!?」

 いつも通り朗々(ろうろう)と教室へ入ってきた日和は、この騒ぎとわたしの手にあるぼろぼろの衣装に気づいて目を見張る。

「日和……。どうしよう、朝来たらこんなことに……」

 彼女と顔を合わせたら叶人くんとのことをどう話そうか、なんて考えていたのにすっかりそれどころじゃなくなった。

 さすがにこの仕打ちは、誰かが悪意を持ってやったにちがいない。
 こんなふうに切り裂いた上でわざわざ教卓の上に置いておくなんて、偶然起こるようなことじゃない。

 そう思うと、自ずと手が震えてしまった。

「どういうこと? ねぇ、誰がやったの?」

 戸惑いつつも怒りをあらわに、その場にいる全員を見回して日和は言った。

 こんなことをした犯人がこの中にいるのだろうか。
 いったい何のために……?

 それぞれ顔を見合せたり困惑したりと動揺が広まる中、凜と誰かが歩み出てくる。
 驚いたことに、それは美怜ちゃんだった。

「夏目さんが犯人でしょう」

 冷静に言い放った彼女は、尋ねるというより確信しているような口調だった。
 突然のことに「な……」と面食らった様子の日和を、温度のない眼差しで捉えている。

「わたし、見ました」

 そう言って掲げられたスマホには一枚の写真が表示されていた。

 映っているのは、壁にかけられたわたしの衣装の前に佇む日和。
 その手にははさみがあった。
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