消して、奪って、きみだけを

「たまたま見かけただけだけど、何となく嫌な予感がして。撮っておいて正解だった」

「え……? ど、どういうこと?」

 信じられない気持ちで日和に尋ねると、彼女は焦ったように首を横に振る。

「ちがう! これは……手芸部の子に頼まれて、仮縫いの糸を切ったときのだよ」

 そうなのだろうか。
 本当に?
 いままでなら疑いの余地もなかった日和の言葉が、どうしてかいまはすんなりと飲み込めない。

 ────あたし、叶人くんのこと好きになっちゃった。

 ────協力してくれる?

 頭の中で、無邪気で残酷な日和の笑顔が蘇っては(もや)に覆われていった。

 飼い慣らすこともできずに()えてしまった日和に対する複雑な感情が、ノイズとなって疑心を呼び寄せる。

「第一、あたしが衣装を切り裂くなんてそんなことするわけないでしょ!?」

 突然あらぬ疑いをかけられたことに腹を立てた様子で、美怜ちゃんを突き返す日和。

 それでもざわめきはおさまるどころか徐々に大きくなり、隣の教室にもこの騒ぎが届いたのか、男の子たちまで廊下に出てきていた。

「……でも、最近は何か様子おかしくなかった?」

「桜木さんと何かあったんじゃないの? 若宮くんのことで」

 女の子たちの飛ばす憶測が耳につき、どきりとしてしまう。

 叶人くんに対してあれほど積極的だったことを思えば、きっとその想いも本気だったはず。
 たとえば、昨日のことを日和がどこかで見聞きしていたとしたら────。

「嫉妬?」

「まさか、振られた腹いせとか……」

「ていうか、そもそも桜木さんと若宮くんって付き合ってると思ってた」

「ひとの彼氏に手出そうとしてたってこと? しかも親友の……」

「最悪」

 憶測はさざなみのように次第にそこらじゅうを埋め尽くし、気づけばわたしには同情の目が、日和には軽蔑の目が向けられていた。

「ばか言わないで! そんなわけないでしょ?」

 そのさざなみに向かって日和が吠えるけれど、目が合った一瞬止むだけでまたすぐに波紋が広がっていく。

 揺れ動く空気全体が美怜ちゃんの証言を補強し、日和を非難するように追い詰めているみたい。

「ねぇ……信じて、羽衣。あたしじゃない!」

 縋るようにわたしの腕を掴んだ日和は懸命に訴えかけてくる。
 色を失ったその顔にはショックと焦りと動揺が滲んでいた。

 真に迫るその眼差しを受け、芽吹きかけた疑心が融解(ゆうかい)していく。
 やっぱり、日和がこんなことをするはずない。

 いくら叶人くんのことで気持ちが衝突していたとしても、こんな陰湿な嫌がらせをするなんて信じられなかった。
 わたしの知っている日和はそんな子じゃない。

 美怜ちゃんは誤解している。みんなも思い違いをしている。
 そう思って口を開こうとしたとき、はっと日和が廊下の方に目をやった。

 瞬間的にわななき、集まっていた人だかりの中にいた叶人くんを指すと声高(こわだか)に叫ぶ。

「叶人くんの仕業だよ!」
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