消して、奪って、きみだけを
信じられない言葉に耳を疑った。
けれど、日和は彼に指を突きつけたまま眉を寄せて怒りをあらわにしている。
「そうだ、絶対にそう。あたしが邪魔になったから……だから」
怒っているのに怯んだような、そんな表情で叶人くんを睨めつけ、半ばうわごとのように繰り返す。
その双眸には明らかに敵意が宿っていて、わたしの方が怯んでしまいそうになる。
「ひ、日和……? どうしたの? 落ち着いて────」
「落ち着いてる! 羽衣、これは……ううん、これも、ぜんぶ叶人くんが仕組んだことなんだよ」
それを耳にした途端、受け止めるように日和の腕に添えた手をほどいていた。
吸い込んだ息を吐き出せないまま、不信に染まった日和の瞳を捉えたままあとずさってしまう。
気づいたら、強張った首を小さく横に振っていた。
────本当にちゃんと管理してんのかよ。ずさんすぎるだろ、いい加減にしろ!
────分担してんだからちゃんと責任持ってやれよ!
状況はまったくちがうのに、いつかのグループワークのときにわたしのせいだと責め立てた松田くんと重なった。
よりによって、どうして叶人くんのせいだなんてことになるんだろう。
そもそも日和は彼のことが好きだったはずなのに、どうして彼を悪者みたいに……?
いずれにしても、こんなのあまりに身勝手な言いがかりだ。
ふつふつと感情が湧き上がってくる。
怒りよりも温度が低く、失望よりも湿っている。
「……ひどいよ」
たまらずそう口にすると、日和は息をのんで目を剥いた。
一瞬、顔を歪めた直後、うなだれるようにうつむく。
「ひどいのはどっち?」
低められた声の圧に驚いてしまうと、緩慢とした動きで顔をもたげた。
今度はわたしを睨めつけてきつく両手を握り締める。
「あんたって本当ばか。何にも分かってない……!」
そう言い捨てると、日和はきびすを返して教室を飛び出していった。
人だかりの間を縫って瞬く間に見えなくなってしまう。
「おい……」
いつの間にか廊下に立っていた涼も、一部始終を見聞きしていたみたいだった。
立ち尽くすわたしと日和の去った方を見比べ、どうするべきか決めかねているみたい。
何だか心に深い爪痕を刻まれたような感覚が残った。
冴え渡るほど冷たい透明な血が流れ出してきて、身体の内側から刺してくる。
「大丈夫?」
立ちすくんでいるとそのうちに歩み寄ってきた叶人くんが、そっとわたしの背中に手を添えてくれる。
「あ、うん。叶人くんは……」
「気にしてないよ、きっと気が動転してただけだろうし。いまはそっとしておこう。羽衣もおいで」
彼もまた唐突にあらぬ疑いをかけられたというのに、冷静なままわたしを気遣ってさえくれた。
促されるままに教室を出て、人だかりから遠ざかっていく。