消して、奪って、きみだけを
────廊下の端にある長椅子に腰を下ろすと、髪に触れる叶人くんの手に委ねた。
さらさらと優しくわたしの髪をすくい上げては、器用に編んで結ってくれる。
その間も日和に投げつけられた言葉が頭の中をぐるぐる巡っていた。
落とした視線がさまよう。
衣装のことは、やっぱり日和の仕業ではないと思う。
だけど、わたしにとってそれはこの際大事ではなかった。
ショックだったのは、叶人くんのせいだなんて言い出したこと。
何がどうしてそうなるんだろう。
それこそ、そんなわけがないのに。
「……はい、できたよ」
ふわ、と肩の前に髪を回される。
持っていた鏡で見てみると、サイドをゆるく編み込んだハーフアップにしてくれたみたいだった。
「わぁ……すごい。ありがとう、叶人くん。自分じゃこんなにうまくできないよ」
感動すら覚えてそう言うと、ふふ、と叶人くんは笑う。
「慣れてるだけだよ。練習すれば簡単にできる」
「慣れてる……って、叶人くんって妹さんとかいたっけ?」
ふと口をついた疑問に、彼が一瞬動きを止める。
すぐにいつも通り笑い、わたしの輪郭にそっと手を添えた。
「そういうわけじゃないけど。……似合ってるね、羽衣。いつもかわいいけど、今日は新鮮でもっとかわいい」
何だかはぐらかされたような気がするけれど、そう素直に褒められるとどうしたって照れてしまう。
“かわいい”なんて甘やかされるたび、触れられるたび、懲りもしないで頬を染めるわたしを、飽きもしないで彼は笑っている。
────昨日、改めてしてくれた告白をきっかけに、わたしたちの関係はただの幼なじみではなく“恋人”になった。
そもそも以前から近すぎたせいで何かが大きく変わったという実感はないけれど、お互いの心の真ん中にお互いがいるのだという保証が、わたしを満たして安心させてくれた。
「衣装のことは心配しないでね。予備があるから大丈夫だよ」
それはよかったけれど、気にかかることが山積みで晴れない。
「でも、誰があんなこと……。日和も大丈夫かな? あんなさらし者みたいになっちゃって」
「……本当にお人好しだなぁ、羽衣は」
聞こえるか聞こえないか程度の大きさで呟いた叶人くんは、優しい微笑みをたたえてわたしの手を握った。
「そんなに気に病むことないよ。羽衣は何も悪くないし、落ち込まなくていい。羽衣がどう思おうと、許そうと許すまいと、犯人も事実も変わらないんだから」
「う、うん……」
それを受け、笑い返そうと思ったのに頬が強張ってしまう。
気のせいかな。
少し冷たいような、怖いような、そんな気がしてしまった。