消して、奪って、きみだけを
「……うまくいけば俺の望みも叶う、ってそういう意味かよ」
「そうよ。本当にそれで引き離せたら、涼にもチャンスが巡ってくるでしょ」
羽衣の心の隙間に入り込め、とでも言いたいのだろうか。
「ばーか、俺はそんなずるくねぇよ」
「あたしだってそのつもりだったよ。でも、知らないうちに選ばされるんだもん。それに……自分の嫌なところばっかり見えてくるし」
いつになく影の濃い表情で日和は言う。
それはきっと、若宮が現れなければ見えることもなかった自分自身の側面なのだろう。
「とにかく、叶人くんは最初から見抜いてたと思う。あたしの狙いを」
「だからこそこうやって、してやられたんだろうな。シャーレのときと状況は似てるけど、今回は明らかにおまえを狙ってるだろ」
「でしょ? あの子、立原さんに誤解されたのもたぶん偶然じゃない。そう思わせるように叶人くんが仕組んだんだよ」
そう言いたい気持ちは分かるし、確かに若宮ならやりかねない。
この件はあの立原の証言で、日和が犯人だと断定されたようなものだ。
若宮は自分の手を汚すことなく、安全圏から最善の結果だけをかっ攫っていった。
「けど……ちょっと変だよな。前とちがって今回は手を加えるタイミングなんかなかったはずだ」
女子の衣装は、当日に更衣室となる隣のクラスの教室でずっと保管していたし、若宮にも触れる隙はなかったように思う。
クラスのちがうあいつが出入りしていれば、まして女子の衣装に触れれば目立つどころじゃないだろう。
「それは……分かんないけど、どうにか目を盗んでやったんでしょ。叶人くんが無関係とはいまさら思えないし」
「まあ、そうだな。それより羽衣とは仲直り……っていうか、誤解は解けよ。友だちなんだからちゃんと落ち着いて話せば分かるって。あいつもおまえのこと大事に思ってんだから」
だからこそ、今回のことで思い悩んでいないか心配だった。
特に日和の思惑を知らなければ困惑するはずだ。
ふっと日和は静かに笑った。
「さすが。本当、あんたには敵わないな」
「こんなときまで茶化すなよ」
「あはは。でも……それは無理」
くるりと身体を反転させ、フェンスに背中を預けた日和は朗々と言ってのける。
口調と内容が真逆で戸惑った。
「何で?」
「叶人くんにも見張られてるだろうし。これが目的だったなら、ここで仲直りなんかしたら次は何が起こるか分かんなくて怖いよ」
また風がそよいだ。
先ほどよりも少し冷たく感じられる。
日和は背中を浮かせ、眉を下げつつうつむいた。
「ていうか、そのときはまたあたしが羽衣を傷つけたみたいな形にされると思う。今回よりもっとひどい内容で。……それが何より怖いんだよね」