消して、奪って、きみだけを
わざとらしく眉を下げ、心配そうな顔をして見せる。
いまのあたしにはもう、これが演技だと分かっている。
「夏目さんが犯人じゃないって僕は信じてるよ、羽衣の友だちだし。きみが言ってたことも気にしてないから」
まだこいつの脅威を知らなかった頃、自己紹介を交わしたときに、名前でいいと言ったのに結局一度たりとも呼び方を崩すことはなかった。
涼が言っていた、相手を信用していないうわべだけの笑顔を貼りつけて明確に線引きしてくる。
それもいまや他人行儀どころか、敵として。
「でも、羽衣が夏目さんのこと心配してる。落ち込んでるから一度話してあげて」
ふ、と思わず冷ややかな笑みがこぼれる。
あたしは本当になんてばかなんだろう。
羽衣一辺倒で羽衣一筋なこの悪魔を、嘘でも陥落できるわけがなかったのに。
どうにか羽衣と引き剥がして一緒に話していても、自分のことはまったく語りたがらなかった。
前にほのめかしていた羽衣の過去を探ろうとも思ったけれど、踏み込む余地すら与えてくれない。
あたしは結局、いたずらに羽衣を揺さぶり、振り回し、不安にさせただけだった。
そのことを謝る機会ももう残っていない。
あたしの笑みを訝しむ叶人くんを、鋭く見据えながら言う。
「……やっぱりね。来ると思った」
一歩踏み込むと、あえて挑発でもするかのように見上げる。
「いつになく饒舌だね、白々しい。まんまと目的達成できたんで舞い上がってるの?」
こちらを見下ろす彼の目は揺らぎもせず、悔しいくらいにその余裕は崩れない。
あたしもあたしで失うものはもうないから、叶人くんに対する嫌悪感や疑惑を隠さず堂々と晒け出せるようになった。
この揺さぶり方はあたしにしかできない。
「もう分かってんだからね。衣装のことだって、あんたの仕業でしょ?」
本当は高橋の件もシャーレの件も問い詰めてやりたいけれど、下手に勘づいていることがバレると涼まで警戒される気がして飲み込んだ。
「……あれ、まだそんなこと言ってるんだ。証拠があるなら見せてよ」
平然と微笑みながら首を傾けた叶人くんは耳元に顔を寄せてくる。
「残念ながら、きみが犯人だって証拠写真しかないよね?」
はっとしてその目を見ると、意味ありげに笑い返される。
やっぱり、と疑惑が確信に変わる。
衣装も叶人くんの仕業か、少なくとも関与していることは間違いない。
想定内とはいえあまりの周到さにさすがに衝撃を受けてしまい、気圧されるあたしに叶人くんは微笑をたたえた。
余裕そうで、むかつくほど完璧で冷ややかな、羽衣には絶対に見せない表情。
「きみには感謝してるよ。羽衣を妬かせたり焦らせたりしてくれたお陰で、やっと恋人同士になれた」