消して、奪って、きみだけを
思わず見張った瞳が揺れないよう、さらなる衝撃を受け流そうと平静を保つ。
(うそ……)
確かに時間の問題ではあるはずだった。
だからこそあたしも焦っていたのだけれど、まさかあたし自身がそれをあと押しする形になってしまうなんて。
こうなった以上、羽衣を取り返すことも叶人くんという脅威を遠ざけることもますます絶望的に思えた。
このことを涼が知ったら、あたし以上に揺さぶられるに決まっている。
冷静さを失ったらきっと自滅させられる。
「羽衣を傷つける形になったのは不本意だけど、それは慰めてあげればいいだけのこと……。僕だけが彼女の傷を癒せるんだ。孤独を埋めてあげられる」
半ばひとりごとのように続けられた言葉に、強気に笑みを返そうにも頬が引きつってしまう。
「……やっぱ、あたしの考えも見抜いてたんだ。それが本性ってわけ?」
羽衣に対する想いと執着の片鱗を初めて覗けたような気がする。
薄々透けていた感情よりずっといびつで、ずっと根深い。
「どこまでが計算……? どこまでがあんたの仕業なの?」
「ぜんぶだよ」
毒のある花みたいな微笑みで、こともなげに言ってのける。
隠す必要すらない、とでも言うように。
ぞくりと気圧されて言葉を失った。
「羽衣さえいれば、ほかは何もいらない。痛いことも、怖いことも、羽衣を迷わせる声も」
色が乏しいのに温度だけは高い瞳が細められる。
「羽衣の中にも僕だけが残ればいい。最初から世界がそうだったらよかったのに……。だから、そのために消してるんだよ。僕たちの幸せを壊すノイズを」
正真正銘、その瞳には羽衣しか映っていないんだ。
最初からずっとあたしも涼も彼にとってはノイズで、そのほかは背景の一部だった。
そして、彼が羽衣に向けていた想いもまた最初から本物だった。
異常なまでの執着は底のない愛でしかなく、彼の世界は羽衣を中心に廻っているわけだ。
「羽衣は優しいから、誰かの声に迷うんだよ。傷ついて、悩んで、自分を責める。だったら選択肢なんていらないでしょ? 羽衣が僕だけを見てくれる限り、もう苦しまなくて済む」
「なに、言って……」
「分かったら大人しくしててくれるかな?」
見下ろすようにして冷ややかに微笑みかけた叶人くんの目が、あたしのブレザーのポケットに向いた。
「それ、録ってるんだ? 羽衣に聞かせるための“証拠”のつもりかな。別にいいけど」
「……え」
録音していたこととその思惑をまんまと見抜かれたことにも驚いてしまうけれど、それよりも、そうと分かっていながら平然としていることに困惑した。
バレたら力づくでも奪うはずだと身構えていたのに、そんな気配もない。
「残念だけど、そんなことしても意味ないよ」