消して、奪って、きみだけを
ぎゅう、とたまらず布越しにスマホを握り締めた。
勝ち誇ったような余裕の笑みが癇に障る。
「何それ。信用されてるから、とでも言いたいわけ?」
「それもあるけど……。その前に消しちゃえばいいだけだから」
データを、という意味ではないだろう。
それなら、いったい何を……?
困惑で立ち尽くすあたしに不敵な笑みを残し、叶人くんはきびすを返した。
◇
午前の時間帯にシフトが入っているわたしたち4人は、着替えを済ませて教室に集まった。
予備の衣装はサイズもぴったりで、用意してくれていて本当に助かった。
教室の扉を開けると、ちょうどそこで涼と鉢合わせた。
蝶ネクタイにベストというシックな装いは、普段のぶっきらぼうな様子とはギャップしかないけれど、思ったよりも馴染んでいて驚いてしまう。
涼もまたしばらく言葉を忘れた様子でこちらを見つめてきたものの、ややあって普段の調子を取り戻したのかからかうように笑う。
「……似合ってねぇー」
「そ、そっちこそ」
むっとして同じように返すと、ふと不思議そうな顔で首を傾げた。
「つか、その髪はどうしたんだよ。自分でやったの? 不器用なおまえが?」
「不器用って、涼よりはまし! でも、これは────」
言い終える前に身体が傾いて思わず言葉を切る。
気づいたら叶人くんに引き寄せられていて、彼はわたしと目が合うと甘く目元を和らげた。
「かわいい。思った通り、その服も髪型も羽衣に似合ってる」
あまりにまっすぐ褒められて、瞬く間に頬が熱くなってくる。
いままで以上に遠慮もなく大胆な甘さを向けられ、恋人という特別な存在になったことを改めて自覚した。
「……ありがとう。叶人くんも似合ってる、すごく」
さすがと言うべきか完璧なまでの着こなしは、ウェイターというより執事みたいだった。
スタイルのよさが際立っていて、おまけにその綺麗な顔で微笑まれるといつも以上に眩しい。
むす、と涼がつまらなそうな表情を浮かべたとき、教室の扉が開く。
日和だった。
しん、と一瞬水を打ったように静まり返ったものの、すぐにさざなみが起こる。
「よく平然と参加できるよね」
「図太すぎない?」
容赦なく叩かれる陰口と冷えきった視線を、日和は徹底的に無視していた。
わたしにも叶人くんにも目もくれないで堂々としている。
「日和……」
思わず踏み出しかけたものの、叶人くんに腕を掴まれたことで阻まれてしまう。
「もう少し様子を見た方がいいと思う。いま行っても冷静に話せないんじゃないかな。そしたら、羽衣が傷つくことになりそうで……心配なんだ」
不安気に眉を下げる叶人くんに胸が締めつけられた。
────あんたって本当ばか。何にも分かってない……!
そう叫んだ日和の声はまだ耳の表面に張りついたまま、思い返すたびに動揺してしまう。
確かにいま話しにいったとしても、感情を逆撫でしてしまうだけかもしれない。